国立工芸館の「心象工芸展」工芸と現代アートをしなやかに越境する6名の作家の作品が集結
髙橋賢悟は、東京藝術大学工芸科で鋳金を学び、鋳金作家に。生と死をテーマに制作を続け、東日本大震災を経て「flower funeral」シリーズが生まれた。ベースとなるのは、1cmにも満たない小さな忘れな草のモチーフの連なりだ。写真の《還(かえ)る》は、これまでにないサイズの大型作品となる。「祈りをテーマとした、壮大なイメージを表現したかったのですが、制作しながらも、物理的に成立するか、自立するかなど、心配が尽きませんでした」と髙橋。 本展のために制作した新作は、小さな香合。「誰かに使ってもらうための作品を制作したことがなかったのですが、取り組んでみるとさまざまな発見がありました」。誰かが手に取って「使う」ために必要な強度を保ち、その上でいかに自由な表現をするかという視点を得たという。蓋と身は忘れな草のモチーフが交互に噛み合うようになっているため接合部が見えず、ひとかたまりのオブジェのように見える。
自身で採取した植物を建築用ガラスに挟み、焼成して封じ込めるインクルージョンという技法で作品を制作する佐々木類。通常は旅先で植物を採取することも多いが、本作は、アトリエや自宅、実家、滞在制作先など、佐々木の生活圏内で採取した植物を月ごとにまとめたもの。ガラスに挟んで焼成することで植物は灰になるが、その植物が含んでいる水分量などによって、泡の出方などが異なるという。葉脈がはっきりと見て取れるものもあり、タイトルどおり、「植物の記憶」の標本のような作品だ。 「本作は身の回りの植物を採取した作品なので、同じ植物の季節ごとの違いなどもわかります。採取した植物を調べるうちに、子どもの頃から親しんできた懐かしい植物が実は外国由来のものだったことがわかるなど、発見もありました」。 本展の取材を通じて多くの作家が口にしたのが、照明の見やすさと美しさだ。全体のフォルムや表現と、通常は何歩も近づいて目を凝らしたくなるようなディテールを、適切な距離から両方とも同時に見ることができる。加えて、作品が宿している心象をも照らし出す。美術館に足を運んで実際に目にする醍醐味が味わえる展覧会だ。 「心象工芸展」 会期:12月1日(日)まで 会場:国立工芸館 住所:石川県金沢市出羽町3-2 TEXT BY NAOKO ANDO