国立工芸館の「心象工芸展」工芸と現代アートをしなやかに越境する6名の作家の作品が集結
松永圭太は、陶器の産地である岐阜県東濃地方で生まれ育ち、現在も当地で創作する陶芸家だ。アートとはもっとも遠い 、泥漿(でいしょう)を型に流し込む鋳込みという量産用の技法を用いて制作する。ゆっくり時間をかけて泥漿を流し込むことにより、作品は地層を思わせる粗い風合いをもつ。
中川 衛は、2004年に戦後生まれ初の重要無形文化財「彫金」保持者に認定された。電機メーカーで工業デザイナーとして活躍した後に地元の金沢に帰郷し、加賀象嵌の道へ。出合った風景を内在化し、普遍的なデザインへと落とし込む表現は国境を超えて多くの共感を集めている。作品は大英博物館やメトロポリタン美術館にも収蔵され、国際的な評価も高い。
以下4名の作家には、短時間ながら話を聞くことができた。 制作前に完成をイメージせずに手を動かし、ひとつの色を刺すと、次にどの色をどこに刺すかが、布と糸との対話によって導き出されるという沖。「今は、少し抑えた色の作品をつくってみたいなと思うこともあるのですが、なかなかそうなってくれない」という。近づいて見ると、ひと針から発せられる凄まじいエネルギーにより異世界に引き込まれそうになるのが沖の作品の特徴といえるが、とくに今回の展示では、そのひと針ずつが、作品全体を見る遠目からもはっきりとわかる。「照明を担当された灯工舎さんの力によるところが大きいですね。作品を深く読み解いて光を当ててくださるので、制作した自分でも気づかなかった点を逆に教えていただくことも多々ありました」。
漆芸の伝統技法である「蒟醤(きんま)」という技法を用いて、何層にも重ねた色漆で鮮やかな色彩と伸びやかな形を表現する中田真裕。蒟醤は、漆の表面を刃物で彫り、そこに色漆を埋めて研ぎ出すという加飾技法のこと。塗り重ねた漆のどこをどのくらい彫り、色漆を充填し、どこまで研ぎ出すのかによって、表出する色が変わる、後には戻れない作業だ。展示作品は、大型のものばかり。「私が抱えることができる最大の大きさです。漆と麻布でできているので重くはないのですが、抱え込んで作業することも多いので、このサイズが導かれました」と中田。 「漆作品を作るには、時間がかかります。その重ねた時間を、彫り、研ぎ出すことで、掘り起こしていくような作業です」。内側から溢れ出すような色彩は、時間と、その間の中田の思いも内包しているかのようだ。