「アイアンドームは役立たず?」 弾道ミサイル迎撃に必要なミサイルの能力とは
10月1日夜、イランはイスラエルに対し、弾道ミサイルによる一斉攻撃を行なった。高速で落下するミサイルが次々に着弾する映像は衝撃的だったが、この攻撃に対しては「イスラエル自慢の迎撃ミサイル『アイアンドーム』はどうした?」と、その防空能力を疑問視する声も見られた。果たして、これは正しい意見なのだろうか? 今回の事例をもとに、弾道ミサイル迎撃について解説してみよう。 TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki) そもそも、弾道ミサイルって何? 弾道ミサイル(弾道弾)は、ざっくり言えば、「ロケットで高く打ち上げて、そのまま落ちてくる」ミサイルだ。射程の短いもので高度数百km、長いものだと1,000km以上まで上昇し、楕円軌道を描いて目標地点に落下してくる。これだけ高く打ち上げるのだから、スピードも半端なく、マッハ5~20で飛んでくる。つまり、他のミサイルや航空機とは、軌道や特性がまったく異なる。 弾道弾は射程で分類される。射程1,000km以下が「短距離弾道弾」、1,000~3,000km程度までが「中距離弾道弾」、3,000~5,500kmが「準中距離弾道弾」、5,500km以上が「大陸間弾道弾」だ。長射程になるほど、高速となる。 1日の攻撃でイランが投入したミサイルは、同国の最新中距離弾道弾「ファター1(Fattah-1)」や「ハイバル・シャカン(Khaibar Shekan)」と見られている。どちらも射程は1,400km程度で、イランからイスラエルを狙うのにちょうどいい射程だ。 弾道弾迎撃ミサイルに必要な能力とは 今回、アイアンドームによる迎撃は行なわれていないが、冒頭で記述したようにアイアンドームは役立たずなのだろうか? 賢明な読者の皆さんならご存じのとおり、アイアンドームは低空・近距離の脅威――つまり国境の向こう側から武装勢力が飛ばしてくる迫撃砲やロケット弾、無人機などの迎撃用であって、弾道弾への対処能力はない。的外れな見解と言えるだろう。宇宙空間から飛んでくる弾道弾の迎撃には、まったく別のミサイルが用意されている。それが「アロー2」と「アロー3」だ。 弾道弾を迎撃するためのミサイルとは、どんなものなのだろう? 前述したとおり、弾道弾は猛スピード(今回のイラン製ミサイルならマッハ10~15程度)で飛来する。迎撃ミサイルは、落ちてくる弾道弾を「待ち合わせ」するのだが、それでもある程度は目標のスピードに追随できなければならない。 アロー2 / 3とも、固体燃料ブースターによってマッハ7以上に加速され、高空へと打ち上げられる。その迎撃高度は、アロー2で最大50km、アロー3は100km(大気圏外)にも達する。そして、高速の弾道弾を正確に捕捉してブチ当てるため[※1]、高性能なシーカー(目標捜索装置)と、軌道を修正する機能(アロー2は動翼と推力偏向装置、アロー3は推力偏向装置)も必要となる。 つまり、弾道弾を迎撃するためには相手のスピードについていけるだけの交戦能力(速度・探知性能・機動性)が求められる。また、前述したように弾道弾は射程が長いほど高速になるため、ミサイルの性能次第で交戦可能な範囲も変わる。アローは中距離弾道弾までに対応している。また、自衛隊が配備しているパトリオットPAC-3やSM-3ミサイルも、中距離弾道弾まで迎撃可能だ[※2]。 自動車に喩えるなら、アイアンドームはご近所用の軽自動車で、アローはスピード勝負のフォーミュラ・カーと言えるかもしれない。ひとくちに「迎撃ミサイル」と言っても、目的・目標ごとにまったく異なるミサイルが用意されているのだ。 ※1:アロー3は直撃式弾頭だが、アロー2は近接爆発による破片攻撃式なので、正確には「ブチ当てる」わけではない。 ※2:主な脅威が北朝鮮や中国の短~中距離弾道弾のため。
綾部 剛之