本当に日本が終わる…予想より20年以上早い出生数70万人割れ “なにもない”地方に求めたいこと
ミニマルな町づくりへの大転換が必要
出生数が8年で3割も減るほどの少子化が進んでいる以上、「若者や女性にも選ばれる楽しい地方」をつくらなければ、日本の地方はみなゴーストタウンのようになってしまう。だから、石破総理の「地方創生」に期待をしたいが、各地の現状がすでに述べたようである以上、創生の道筋を地方にまかせるだけでは、さらなる沈下を招くに違いない。 「なにもない」地方などないのだから、東京を真似ずに「ある」ものを活かす。ヨーロッパの視察なども重ねて、その活かし方を徹底的に検証する。まずは、国がそうしたことを主導し、地方に考えさせたうえで創世の道筋をつけないと、むしろ前述したような悪循環が生じるから、心してかからなければならない。 人口減少を考えると、地方をめぐる状況は今後、厳しさを増す一方だと思われる。豊かさの象徴として整備が進められてきた道路や橋梁も、町の文化施設のようないわゆるハコモノも、老朽化が進んで整備や維持にこれまで以上の費用がかかるはずだが、少ない人口でそれをどう賄うのか。街区にせよインフラにせよ一定程度は切り捨て、公園や農地にすることや、林に戻すことなども考え、持続可能な地域に絞って、ポテンシャルを活かした町づくりをする必要があるだろう。 だが、東京をはじめとする大都市も、同様の見直しをしないかぎり持続できまい。出生数がここまで減っている以上、拡大を続けてきた都市空間やインフラを縮小し、ミニマルに抑えていく。国土の整備のあり方をそのように大転換しないかぎり、社会が維持できなくなってしまう。そこまで見据えたうえで「地方創生」に取り組んでほしい。
「少母化」を食い止める唯一の方法
とはいえ、この少子化を前に手をこまねいていては困る。石破総理は「少子化の本質は母が少ない『少母化』」と語っていた。問題は子育て以前の出産にあるので、子育て支援として金をばらまく以前に、子供を産んでもいい、産みたいと思わせることこそが大事だ、という主張だと私は解釈している。それは正しい認識だと思う。 少子化はジェンダーフリーや男女共同参画と切り離せない。子供は女性にしか生むことができない。それは未来永劫変わらない真理である。しかし、性差による社会的な役割分担が否定されれば、なぜ出産という、男性は負わずに済む負担を負わなければならないのか、という疑問をいだく女性が増えるのは当然だろう。 そんな女性の疑問、または不満に応えるには、たとえば出産は、産休や育休が明ければ女性が希望した職場に戻れる、しかも降格したりせずに戻れる、といった環境を整備することが大事ではないのか。すなわち、子供を産まずにすむ男性にくらべ、女性が不利になることはない、と実感できる環境づくりこそが、少子化を多少なりとも食い止めることにつながるはずである。 石破総理の意識はいい。あとは力強く実効性がある政策に置き換えることができるかどうかにかかっている。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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