「またトラ」でサイバーセキュリティ政策にも影響 安全保障と経済活動のバランスは簡単ではない
■バイデン政策の見直し「セキュリティより競争力か?」 トランプ政権は、共和党の政策として、産業界を支援して市場を拡大させたい狙いがある。自国のエネルギー産業や自動車産業を強化するため、例えば、脱炭素政策を見直すとしている。 一方で、自動運転やAIなど新しい市場に対して、アメリカ主導での拡大も進めている。そのため、EVであってもアメリカ国内生産であれば優遇措置を講じる構えも見せている。 サイバーセキュリティ分野に対しても、業界の意向を汲む形で民主党政権下のガバナンスや規制を見直そうとしている。
バイデン政権でCISA長官に就任したジェン・イースタリー氏は、すでに2025年1月20日に辞任することが決まっている。アメリカにおいて与党の交代で閣僚や高官が入れ替わるのは普通だ。イースタリー長官は、CIRCIA法案にもかかわっている。2024年8月には、「ソフトウェア業界は脆弱性という名前で、バグ(製品の欠陥)を放置している」と発言し、ソフトウェア業界の品質管理に苦言を呈している。 イースタリー長官の後任人事は決まっていないが、トランプに近い人間の場合、ソフトウェアのセキュリティよりもアメリカの市場競争力アップを優先させる軌道修正が入るかもしれない。
■小さい政府と安全保障をどうバランスさせるか しかし、サイバーセキュリティの問題は、国家安全保障にもかかわる。市場原理を優先させた場合、テロ対策や国家支援型サイバー攻撃への防御・対抗に悪影響が避けられない。 セキュリティ・安全保障と経済活動をバランスさせるのは簡単ではない。トランプ政権では、産業界には規制緩和や優遇措置という「アメ」で支持・支援を集めつつ、有事の際の規定や罰則(ムチ)で政府協力を得ようとするだろう。
グーグルやアップルは、サイバー犯罪、サイバーテロの捜査において、必ずしも協力的ではない歴史がある。前述のスパイウェアの問題でも、ペガサスがiPhoneを標的としたマルウェアであるため、アップルはスパイウェアビジネスには否定的な立場をとっている。犯人から押収したiPhoneのロック解除を、裁判所の令状があっても拒否したこともある。 つまり、サイバーセキュリティについても、経済活動や市場活動はなるべく制限せず市場を活性化させることで、産業界の支持を確保する。その一方で、有事や重要政策では政府によるガバナンスを利かせるという戦略が考えられる。
この場合、規制緩和とガバナンスのバランスがとれていればよいが、右翼的な政策に寄ると、見た目は自由主義経済のセキュリティ政策でありながら、中身は中国・ロシア並みの統治政策、国家主導型のサイバーセキュリティ政策になる危険性がある。
中尾 真二 :ITジャーナリスト・ライター