「またトラ」でサイバーセキュリティ政策にも影響 安全保障と経済活動のバランスは簡単ではない
規制や報告義務などが強化されるのか、緩和されるのかの判断は難しい。国防視点では、政府機関や重要インフラへのサイバー攻撃の情報はくまなく押さえたい。しかし、事業者側の反発は避けたい。落としどころについては後述する。 AI規制 2024年10月にバイデン大統領がAI開発について安全保障の面から規制すべきとの覚書(NSM)を発表している。覚書では、アメリカが高度なAI開発を主導すること、AIを民主的かつ安全保障のために使うこと、国連の枠組みでAIガバナンスを構築することとしている。
安全保障視点では、トランプ政権との齟齬はないが、ガバナンスについては、例えばカリフォルニア州が提案しているAI規制法にはOpenAIが反対を表明している。連邦政府が規制を行うなら、それ以上細かい規制や法律を増やしたくないというのは、産業界の本音だろう。 AI技術で追い上げる中国を引き離す意味で、AI規制やガバナンスの軟化は、技術革新や市場活性化につながるが、フェイクニュースなどAIの脆弱性を使った反社会活動をも促進させる。世界中で問題になっている社会の分断を加速させる可能性がある。企業にとってはセキュリティコストや(正確な)情報の選択・利用コストの増大につながる。
スパイウェア スパイウェアとは、スマートフォンやPCに侵入してデバイス内部のデータやキー操作、表示画面の内容などを外部に送信するアプリケーションだ。通常は、マルウェアに分類され違法なものが多い。だが、これをビジネスとして提供または販売しているセキュリティベンダーが存在する。有名なのはイスラエルの企業、NSOの「ペガサス」というソフトウェアだ。 NSOの主な顧客は、各国の政府機関や軍、警察組織。建前として各国裁判所の令状や政府の許可が前提となるビジネスだが、法的にもグレーな存在・ビジネスといっていい。
バイデン政権では、スパイウェアは国家安全保障の脅威になるとして、規制対象となっている。しかし、近年、グローバルでスパイウェアを手掛ける企業が増えており、とくに中国においてはスパイウェア産業がすでに成立しているとされる。中国では各省など地方自治体が犯罪捜査・反体制分子の監視に利用しているという。 トランプ政権では、アメリカでもスパイウェアの規制を緩和する動きを指摘する識者がいる。ビジネス視点では、犯罪捜査のための新しい市場という見方ができる。