〈総選挙 私はこう見る〉「『安倍晋三 2.0』 ── 戦略的解散の成功と憂鬱」 逢坂巌
「福の神」の誤算
しかし、聴衆の「祈り」の対象となった「福の神」、リベンジマシーンである「安倍晋三 2.0」を信用してしまうのには、危うさを伴う。なぜならば、彼は看板の経済政策の判断で、すでに大きな「失敗」を犯しているからだ。 ここで指摘したい「失敗」とは、アベノミクスそのもののではない。専門の経済学者ですら議論がわかれる問題に、門外漢の筆者が嘴を挟むことは差し控えたい。筆者が指摘したいのは、そうではなくて、もし安倍氏のいうように「この道」しかないとしても、安倍氏自身が「この道」を傷つける大きなミスジャッジをしていたということである。すなわち、去年10月の消費税導入の「決断」である。 実は安倍首相は迷っていた。昨年、10月に放送されたNHKスペシャル「消費税増税の2ヵ月の攻防」(※6) 。番組は、安倍が経済ブレーンの浜田宏一や本田悦郎が景気の腰折れ懸念から増税延期を進言していたのに対して、彼らの議論を振り切って、安倍首相本人が、甘利明経産相や麻生太郎財務相が唱える増税路線を進むことを自らの意志によって決断したと伝えるものだった。放送当初は、この番組は、経営委員長が「安倍派」に変わったNHKが、安倍の決断を後押しするヨイショ番組だ、などと言う向きもあったが、いま、見直してみるととても興味深い。安倍首相が、この増税の決断について、次のように語っている。 「総理大臣はですね、最終的な決断をするのがその仕事の大部分だと言ってもいいと思いますね。そして、その決断が間違ったものであってはならない。特に消費税っていうのは後々の経済、国民生活に大きな影響を与えますから、そういう意味においてはですね、この2ヵ月間、本当に毎日毎日考え続けてきました」 しかし、結果として、「国民生活に大きな影響」が生まれた。消費税増税から2期連続でGDPはマイナスとなった。アベノミクスを推進する安倍首相は、「この道」の「成功」を大きく傷つける「間違った決断」をしたかもしれないのである。