『燕は戻ってこない』原作者とプロデューサーが語る「日本はバイアグラに比べてピルの承認に時間がかった。〈買春〉も罰せられない不公平」
◆簡単に答えが出ないから考え続けたい 板垣 本もドラマも、みんなでこうして感想や自分の考えを話題にすることで「一時代を一緒に生きている仲間」になった気がして。そこが好きです。 桐野 そうですね。板垣さんはなぜドラマを作る道に進まれたんですか。 板垣 子どもの頃は自分の意見をはっきり言えるタイプではなかったので、読んだ本や観た映画を通して、「私と同じように思っている人、けっこういるんだなあ」「自分は一人じゃないんだ」と勇気をもらっていました。 本を作る仕事でもよかったんですけど、偶然が重なって入った映像の世界で、これからも物語を作っていきたいですね。桐野さんの作品は、私のなかにある複雑な感情に言葉をつけてくれたり、感情そのものに気づかせてくれたりします。登場する女性も、悩みながら力強いです。 桐野 『燕は戻ってこない』の主人公の理紀が代理母を引き受けたあと、そのことに悩んで故郷でやりたい放題するじゃないですか。私はそういうところが、けっこう好き(笑)。同化するより異化する人間をよく書きますね。傷があったりダメなところのある人が好きなんですよ。
板垣 私もどちらかというと同じで、いい人だけが出てくるドラマには個人的には共感できないんです。ダメだけど必死に生きている人を見ていると勇気づけられるし。 桐野 でも、どこかが欠けている人間を描くのは難しいですね。たとえば多くの人はこういう反応をするのに、この人だけは別のとんでもない反応をする。そこをどう説得力を持たせて具体的に描くか。 板垣 自分ではない人間がなぜそういう行動をとるのかを考えるのは、難しいですよね。 桐野 なぜ一線を越えたのか。越える前と後とで、どう世界は変わるのか。その一線に苦悩が詰まっているわけで、そういうことをぼんやり考えている時間って案外楽しかったりもして。 小説はそもそも正解を示すためのものではないし、わけのわからない状況を書いていくのが面白いところでもある。でもドラマだと、面白がってばかりもいかないでしょうし。 板垣 媒体の特徴として、やはり視聴者のカタルシスを考えざるをえないですけど、私もあまり「こうだ」と言い切りたくなくて。ドラマを観てどう感じるかは観る人に委ねたいし、答えが簡単に出るようなことは大事なことじゃない気がするので。 桐野 本当に大切なことは、答えが永遠に出ないのかもしれませんね。 板垣 考え続けることが大事なんだと思います。それを、物語を作ることで続けていきたいです。 (構成=篠藤ゆり、撮影=洞澤佐智子)
桐野夏生,板垣麻衣子
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