滋賀医大生・性暴力事件、大阪高裁はなぜ「無罪」と判断? 【判決詳報】
●争点1 X女の証言の信用性
事件当時の記憶について、X女は一部欠落しており、口腔性交【1】や口腔性交【2】が始まったきっかけについて覚えていなかった。 1審の大津地裁(谷口真紀裁判長)は、「それぞれ印象に残る場面であるはずなのに記憶しておらず」と指摘する一方、「相当量の飲酒をしていたことや時間の経過を踏まえると、記憶の欠落や混同があることは不自然ではない」と判断。 X女が被害後、性犯罪被害相談電話で「性行為自体は、警察呼ぶとか、自分で断れなかったのでもう、なんか、いいんですけど、その動画が」と話したり、X女が当初、警察に口腔性交【1】について申告していなかったことから、B男とC男の弁護人は「X女が被害申告したのは動画拡散を阻止するためであり、そのために強制的な性交等であった旨誇張して供述をする動機や必要性がある」と主張した。 だが、大津地裁は「性被害にあった者にとって、被害直後の段階では混乱や動揺から抜け出せず、被害を思い出すことにも苦痛が伴うであろうことは想像に難くないから、被害申告の段階では記憶を整理できず、何があったのかを十分に把握できていなくとも無理はない」などとして、X女の証言の信用性を認めた。 これに対して、大阪高裁(飯島健太郎裁判長)はまず、「X女が被害申告した当初の主たる目的は、性被害として処罰を求めることよりも、動画の拡散防止にあったことは明らか」としたうえで、X女が動画の拡散を防止するために「状況等を誇張し、自身の不利な行動を隠して矮小化して供述する明白な動機があり、実際に口腔性交【1】の事実等を隠す内容の虚偽供述をした事実もある」と指摘。 そして、「原判決はかかる重要な視点から十分に検討をせず、Xの証言が真実であるとして説明が付けられるかという方向からの検討の仕方に偏ったものとなっているといわざるを得ない」と批判した。
●争点2 強制性交罪の「暴行・脅迫」があったか?
次に、強制性交罪における「暴行・脅迫」があったかについて。 1審の大津地裁は2024年1月、脅迫等【2】、脅迫【3】、暴行【2】について、「口腔性交【1】は、X女がエレベーター内で繰り返し性交等を拒絶する発言をしていたわずか約4分後の出来事であることも踏まえると、X女の反抗を著しく困難にさせる有形力の行使ないし害悪の告知といえる」などとして性交などの性的行為に向けられたものだと認定した。 これに対して、大阪高裁は1審が認定した3点についてそれぞれ次のように判断した。 脅迫等【2】については、X女が部屋に入室後、数分後にA男とリビングで口腔性交を始めたことや、C男がリビングに入ろうとドアを開けた際にX女が自らドアを閉めたことなどに言及し、「X女がA男から口腔性交を求められ、任意に応じたものであった可能性が高い」「原判決は、口腔性交【1】が、暴行・脅迫がなく始まった口腔性交に引き続き行われたものであること、その結果、脅迫等【2】が口腔性交に通常伴う有形力の行使や卑猥な言動と評価できる余地が多分にあるのに、その可能性に目を向けず、これを強制性交等罪にいう暴行・脅迫に当たるものとしたもので、その判断は不合理である」と判断した。 脅迫【3】については、「A男とB男、X女との間で、かわるがわる口腔性交が行われていた中での発言であり、いわゆる性行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のものと評価可能である」と指摘。 暴行【2】については、A男がX女の身体を引っ張った方向や方法について、X女とY女の証言が食い違っていることや、元々Y女が飲み会に誘ったことでX女が性被害にあったと訴えていることに関して、自責の念を抱いていると推察されるY女がX女の利益のためX女に同調して虚偽の供述をする動機や危険性があるため、B男がY女を引っ張った事実が認定できないとした。 また、A男がX女に抱きついて引き止めた暴行については、(強制性交等罪における暴行というには)これによってX女にその場から立ち去ることを断念させたといえる必要があるとし、この時の状況を説明するX女の証言について、動画からうかがわれる状況に照らすと必ずしも信用しがたく、むしろLINE交換を名目とするA男の引き止めを受けて残ることにした可能性を払拭できないとした(したがって、A男がX女に抱きついて引き止めたことは、強制性交等罪における暴行にはあたらないこととなる)。 本件性交等(口腔性交【3】と性交)については、A男の抱きつきの後、B男がY女を送りに外に出て、戻ってきた時にはまたA男とX女との間で口腔性交【3】が始まっていたのであり、「任意に応じたものとしても不合理ではない」と指摘。 A男の抱きつき行為が強制性交等罪にいう暴行・脅迫とは認定できず、その後の性交までに新たに暴行・脅迫が加えられた状況もないことから、本件性交等が暴行・脅迫によるものとは認められないと判断した。