JINSがオフィス移転で、挑戦者としてのマインドを取り戻せた理由
出社している人ほど、仕事が面白くなっている?
――出社ルールは、どのようになっているでしょうか。 移転前後は世の中的にもワークスタイルの考え方が多様化している頃で、社内でもさまざまな声がありました。原則は週3日の出社をルールとし、各本部の状況や業務特性を考慮しながら本部長の判断で運用できるようにある程度の柔軟性も残しました。リモートワークでも仕事はできます。しかし、リモートワークの普及によって「失われたものがある」というのが私たちの実感でした。それは「アイデアの種」です。 面白いプロジェクトは、社員同士の何気ない会話から生まれることが多い。リモートワークは決められたタスクを遂行するには適していますが、新しいものを生み出す環境としては厳しいので、アイデアの種を見過ごさないよう、出社を推奨する方向にかじを切りました。 ――従業員の皆さんの反応はどうでしたか。 正直なところ、出社に消極的な声もありました。しかし、しばらくすると、進んで出社する人はいきいきとしていること、仕事が面白くなっている人ほど出社していることを感じるようになりました。最初は会社のルールとして出社日数を増やしましたが、「仕事がより面白くなるかもしれない」と、主体的に出社の意義を見いだしてくれるようになりました。 そもそも、今回の移転では、出社そのものが楽しくなることを目指していました。例えば、週ごとに座席をシャッフルする仕組み。フロアごとに内装が異なるため、フレッシュな気分になりますし、隣にいる部署が毎週違えば顔と名前が一致し、どんどん仲間が増えていきます。わたし自身も、オフィスに来るといつも変化があり、わくわくします。 ――移転によって、あらためて挑戦者マインドは生まれてきたように感じますか。 はい。そもそもこの移転がなかったら、自分たちで働き方を考える機会もなかったと思います。指示されたことをただ遂行するのではなく、自分たちがありたい状態に向かうためにどういうアクションを取るか。そういう能動的な仕事の仕方に自然となってきたと捉えています。 ――オフィス移転に関してアイデアを募集したそうですが、取捨選択するときは、何を基準にされたのでしょうか。 社長、社員、建築家など、社内外問わず多くのアイデアが集まりました。アイデアを採用する際のポイントは、思わず行きたくなるような魅力的な場所や、わくわくが引き出せる場所になるかどうか。「この場所はこれに使いましょう」と細かく決めすぎず、世の中のオフィスの固定概念にとらわれない柔軟な発想を大切にしました。そうすることでオフィスのあり方に問いを立て、クリエ―ティビティを刺激するオフィスになったと思います。 ――クリエーティビティを生むオフィス環境にするために、工夫した点はありますか。 視界に必ず「未完成なもの」が入ってくるようになっています。例えば、むき出しの天井や、塗りかけのコンクリート。私が初めてこのオフィスに来たときは、まだ工事中なのかと思ったほどです。これらは「自分たちが未来をつくっていくのだ」という気持ちになってもらうための、余白になっています。 また、3階の会議室の手前には、美術館をほうふつとさせる真っ白なギャラリースペースがあります。会議室は、取引先との商談や社内の打ち合わせを行う場。「一つひとつの打ち合わせが、クリエーティブな時間になるように」という思いから、ギャラリースペースを通って会議室に入る設計になっています。 ――オフィス全体に意味があるのですね。 新オフィスは、考える機会が「自然発生」する場になっています。例えば、床から椅子を引き出して使う「原っぱ」のフロア。会議をすること一つとっても、椅子の配置は「コの字」がいいのかランダムがいいのか、そもそもどちらを前にすればいいのかなど、その都度使い方を考えなければなりません。 人の固定観念は、オフィスからつくられてしまうのではないでしょうか。意識していないと、「オフィスの執務室は、これくらいのスペースは必要だよね」などと、気づかぬうちに既存の枠組みにとらわれてしまいます。必要なのは、私たちがオフィスに合わせることではありません。先に理想があって、それをかなえるための空間はどんなものなのかを考える。そうすることで、理想として掲げていた「挑戦者マインド」を醸成するための常識にとらわれないオフィスができたのだと思います。