JINSがオフィス移転で、挑戦者としてのマインドを取り戻せた理由
不便を楽しむためのクリエーティビティ
――移転前後で、オフィスにはどのような違いがありますか。 新オフィスは、まず面積が狭くなりました。コロナ禍を経てリモートワークを導入したこともあり、史上初の「減床」です。また、以前は1フロアの執務室でしたが、移転後は9階建ての建物になり、執務室は四つのフロアにまたがることになりました。 ――それだけ聞くと、不便になったのではないかと思うのですが、何か狙いはあるのでしょうか。 不便になったのは、その通りです。重要なのは「不便な状況をどう捉えて、どういう働き方につなげるか」「今あるものをどう生かして、どのような意味づけをするか」です。 JINSでは、日々の業務にもクリエーティブなマインドで取り組んでほしいという期待をこめて、従業員を「クリエーター」と呼んでいます。不便な状況も、クリエーティビティを発揮することで、新しい価値が創造できると考えているのです。オフィスが狭くなることをグレードダウンと捉えるのではなく、実験のように、常識を外して物事を見てほしい。そういう思考を促すオフィスでありたい、という思いがありました。 ――引っ越しプロジェクトにおいて、人事部はどのような役割を担ったのでしょうか。 プロジェクトの中心メンバーは、店舗設計・システム・地域共生・人事・広報などさまざまな職種から構成されました。人事部からは、過去にオフィス移転を経験し、当時インナーブランディングを担当しているメンバーが参加。特に、「働き方をデザインする」というミッションを担っていました。 「働き方をデザインする」というのは、「新しい出社ルールを決める」といった単純な話ではありません。当社の場合、「制約をどのようにクリエーティブに昇華させ、実際の働き方につなげるか」まで目指します。なかなか答えのない難題で、担当者はいつも頭を抱えていました。 ――結果的に、どのような働き方が生まれたのでしょうか。 1階のエレベーターにサイネージがあったのを、ご覧になりましたか。新しいオフィスでは、週ごとに働くフロアが替わります。週初めに出社したら、サイネージに「8階 人事部/営業部/マーケティング部」などと書かれているのを見て、今週働くフロアを知る。また翌週は違う組み合わせになっている、というしかけになっています。 このしかけは、社員同士のコミュニケーションが「閉じない」ようにするためのものです。旧オフィスはフリーアドレスでしたが、実際はなんとなく同じ部署の人たちで固まって座る、という運用でした。新オフィスはフリーアドレスに加え、執務フロアも分かれているので、限定されたメンバーとしか顔を合わせなくなる懸念がありました。 このような課題や懸念を解消するため、新オフィスでは、週替わりで部署ごとにフロアをローテーションする仕組みをスタート。チームで働く利便性は高めつつも、フリーアドレスのエッセンスは残し、他部署とのコミュニケーション活性化もかないました。 ちなみに、サイネージには「8階 80%」「7階 52%」といった数字が表示されているのですが、これは各フロアの座席の稼働率です。これを見れば、混雑状況がすぐ分かります。また、フリーアドレスの弱点である「誰がどこにいるかわからない」問題も、「居場所を検索できるシステムを作る」といった対応により、解決しました。