推し活盛況の背景に承認欲求疲れ 夢を託すことでも心は満たされる
「推し活」で悩みが消えた!
「推し活」人口は1000万人規模にもなり、日本人の4人に1人は「推しがいる」といわれている。盛り上がりを見せるこの市場は、多くのビジネスチャンスが眠っている。「推し活市場」の最新事情をひもとく本連載。今回は精神科医の熊代亨氏に「推し活」の消費者心理について話を聞いた。 【関連画像】マズローの欲求段階ピラミッド(『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足』[熊代 亨・著/大和書房]の図を元に編集部で作成) 2000~10年代、SNSでフォロワー数や「いいね」数を競い合う空前の「承認欲求」の時代があった。当時「インスタ映え」する場所に出かけて自撮りするのが主流だったが、「SNS疲れ」が盛んに騒がれ始めるようになると、少しずつSNSの使い方は変化していった。 ブログで現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている精神科医の熊代亨氏は「インスタに載せるのにふさわしい内容も何となく変わりました。『とにかく私を見て!』というギラギラした感じが収まり、『インスタ映え』を明らかに狙った写真は逆にダサい、と思われるようにもなりました。こういった個人主義の揺り戻しを背景として現在の推し活ブームが始まったのではないでしょうか」と言う。 無論、これまでも「推し」に似た「オタク」と呼ばれる文化は存在した。当時は「萌え」といわれ、閉ざされたコミュニティーの中で盛り上がりを見せていたが、キャラクターやアイドルを「推し」ていたという行為そのものは変わらない。 「オタク」というやや蔑称じみた呼び名が「推し活」という自己啓発を想起させる言葉にすげ替わった大きな転機はAKB48の台頭にある、と熊代氏は言う。「誰かを推す」という行為が一般的になり、「推す」ことの大義が語られるようになった結果、「推し」は一部の「オタク」から「みんな」のものになった。拍車をかけたのは20年頃から始まった新型コロナウイルス禍だ。外出自粛を求められる中、インターネットでアクセスできる各種メディアに集結したコンテンツに触れる機会が増えた。 演劇、アイドル、海外スター、VTuberなど、「推す」対象も広がった。2.5次元舞台の登場、ライブ配信アプリの多様化、Netflixに代表される動画配信アプリの拡充など、「推し活」の幅も広がっていった。リアルタイムで見ることのできなかったコンテンツをさまざまな場所からさまざまな形で視聴し、情報を得て、遠く離れた同じ趣味の人と共有できるようになった。発信主体がマスメディアから個人へと変わり、メディアのインフラが整備されたことで「推し」は急速に広がっていった。 流通はもちろん、リポストなどのシェアの様式も次第に洗練されていった結果、自分の好きなものを「推し」やすくなった。24時間365日いつでも配信があり、いつでも反応できるため、「推しがい」もある。身近に同じ「推し」仲間がいなくても、世界中と瞬時につながる今、「推し活」がブームを迎えたことは必然ともいえる。