“奥・山梨料理”とは?郷土愛に満ちた研究から生まれる「レストラン サイ」の魅力
富士山を望む山梨県の西湖にオープンした「レストラン サイ」では、豊島雅也シェフが日々、地域の食材を研究し新たなおいしさを引き出す“奥・山梨料理”を味わえる。自らを“食猟師”だと語る豊島シェフに、地元愛あふれる創作活動について聞いた 【写真】「レストラン サイ」が提供する“奥・山梨料理”
東京都心から車で2時間弱。富士山の麓である山梨県西湖に6月1日、一軒のレストランがオープンした。名前は「レストラン サイ」。メインシェフを務めるのは、このエリアに移住しておよそ7年になる料理人、豊島雅也。提供される料理は、フレンチをベースに地域でとれる食材を使った“奥・山梨料理”をコンセプトにしたものだ。
豊島シェフは自らを“食猟師”と名乗り、厨房に立つだけではなく、狩猟、養蜂、農業、キノコや山菜の採取、ハーブ生産など料理につながるさまざまなことに取り組んでいる。そして、手に入れた食材をまるで研究者が実験を行うかのように、さまざまな手法で発酵させたり、熟成させたりしながら、豊島シェフにしかできない調理法や料理の開拓に日々、挑んでいる。 料理人目線での西湖周辺の魅力について、豊島シェフはこう語る。 「この地域は料理の世界では未開の地です。山も湖もあり、いろいろな生態が入り混じっているので、その分、食材もありますし、中にはまだ誰も料理に使っていないものもあると思うんです」 例えば、大人の男性の腕くらい太い野生のうなぎや淡水魚のヒメマス、食材として知られていないキノコや野草、木々や香木などを積極的に取り入れていくのが“奥・山梨料理”だ。 「かつての僕は、いい食材を求めて全国各地に足を運んでいました。どちらかと言えば、上を見て生活していたんです。ところがこの地域で暮らし始めてからは、下を見る、つまりは野草や動物の足跡を見つけるために足元に目を向けるようになりました」 全国から食材を集めれば、どんな料理でも容易にできるが、ここではあえて食材の調達を標高の高い奥・山梨周辺に限定していると話す豊島シェフ。 「いろいろな食材があったら人は考えなくなりますよね。食材が限られているからこそ、それらをどう使うのかをちゃんと考えるようになります。例えば、塩ひとつとっても、海で獲れたものと海の塩は合いますが、山で採れたものと海の塩は離れすぎてしまう。そこで海水をくみ上げてきて自分で塩を作り、その際に山の木を海水に入れて炊き出すことで香りをつけてみたら山のものに合うのか? そんな風にさまざまな食材に対してつねに仮説を立てながら、未知なる可能性を試しています」