真空では「考えられないこと」が当たり前のように起きている…量子色力学から見た「トリッキーすぎる世界」
「パリティ対称性の破れ」とは…?
素粒子物理における数々の発見の中で最も驚くべきものは、おそらく1957年の「パリティ対称性の破れ」の発見でしょう。日本語では「鏡映対称性の破れ」と呼ばれます。 磁場の中で右回りに回転する粒子と左回りに回転する粒子に働く物理法則は異なります。単純に考えると、右回りと左回りは互いに鏡に映した世界なので、すべての左右をひっくり返せば同じことが起こりそうに思えます。しかし、自然はそうなっていないらしいのです。 その後の発展によってわかったことは、自然界の4つの力の1つである「弱い力」が、右回りと左回りを区別していることでした。弱い力は、原子核のベータ崩壊(原子核が電子とニュートリノを放出して種類を変える反応)を引き起こす力として知られています。 重力や電磁気力は、右と左を入れ替えても法則は変わりません。私たちの日常でパリティ対称性の破れを感じられないのは、弱い力が日常的な距離のスケールでは弱すぎて実感できないためです。弱い力が顔を出す原子核や陽子・中性子のスケールにまでズームすることで、初めて違いが見えてきたのです。 * * * さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所