真空では「考えられないこと」が当たり前のように起きている…量子色力学から見た「トリッキーすぎる世界」
真空中の「クォーク」に何が起きているのか?
真空が何もない空間ではなく、クォーク・反クォーク、グルーオンで満たされた空間だとしたら、何が起きるのでしょう。そこにクォークが1個飛び込んできたとします。このクォークは、真空中に埋まった反クォークと対消滅を起こします。ただし、そのままではエネルギーが保存されないので、同時に真空中からクォークをたたき出すことになります。 クォークが真空中で玉突き衝突を起こしたと思ってください。玉突き衝突はクォークが進むにつれて次々と起きます。全体としては1個のクォークが走っているように見えるかもしれませんが、実際は多数の玉突きの結果ということになります。 クォークにとって、この真空中を進むのは一苦労です。簡単には進めず、常にある種の抵抗を感じながら進むことになります。このことは、「クォークが質量を獲得した」と表現してもよいですね。本来は光速で飛ぶはずのクォークが減速される。その度合いが質量として現れるためです。得られる質量の大きさは、真空中に埋まったクォーク・反クォークの密度によります。この質量は、およそ陽子・中性子の質量の3分の1程度です。そのクォークが3個集まると、陽子・中性子の質量になっているのです。 物質の質量のほとんどは陽子・中性子に帰せられる、といま述べました。そして、陽子・中性子の質量は、量子色力学の性質にしたがって真空に埋まったクォーク・反クォークに起源をもつと。物質の質量の起源を突き詰めていくと、真空に行きつきます。驚くべきことではありませんか。しかも、話はこれで終わりではありません。わずかであるとはいえ、電子にも質量があるのでした。その電子の質量は、どこからきているのでしょう。 その話をする前に、そもそも、なぜわれわれは質量の起源を気にしているのでしょう。電子には、ある値の質量がある。そういうものなのだ。そう考えてはいけないのでしょうか。実際、ある時期までは、それで問題ありませんでした。「パリティ対称性の破れ」が見つかるまでは。