日本人じゃなくなる・・・あふれた涙 選んだのはカナダ代表 パリ五輪「金」の出口クリスタ、批判されても切り拓いた道
パリ五輪の柔道女子57キロ級で金メダルの快挙
パリ五輪の柔道女子57キロ級で、カナダ代表の出口クリスタ選手(28)=日本生命・松商学園高―山梨学院大出=が金メダルを獲得した。長野県内出身選手が夏季五輪個人種目で優勝するのは初めて。カナダ代表の柔道金メダルも初となる快挙を果たした。 【写真】高校時代の出口クリスタ
葛藤の末にカナダ国籍を選択、見せた生き様
出口クリスタ選手は、葛藤の末にカナダ国籍を選択した。不安と希望を抱いて歩み出した道の先は、パリの頂点。金色の輝きに照らされたその生き様をもって、正解は一つの道だけじゃないことを示した。
表彰台に並んだ2つの国旗
「表彰台に上がった時は特別感があった」。舟久保遥香選手(25)=三井住友海上=が3位になり、メダルセレモニーではくしくもカナダと日本の国旗が並んだ。見つめる出口選手の瞳はぬれていた。
最初は断った誘い、でも日の丸を背負えなくて
カナダ人の父と日本人の母の間に生まれた出口選手。二つの国籍があり、法律で22歳に達するまでにどちらかの国籍を選択する必要があった。松商学園高校(松本市)時代に届いたカナダ連盟からの最初の誘いは断った。しかし、山梨学院大学時代に2度目のラブコール。全日本柔道連盟(全柔連)の強化指定を受けても、日の丸を背負えない当時の現状があった。「何か変化が必要なんじゃないか」。 友人や恩師たちの助言も聞いて回った。「カナダであっても柔道は変わらない」「二つのルーツがあるクリスタだから得られた権利」と背中を押された。出口選手の「オリンピックに出たい」という夢もある。当時は、厳しい日本の代表争いを勝ち抜くより、カナダの方が五輪出場の可能性は高かった。2017年、決断を下した。
感謝と不安と葛藤と…あふれ出た思い
強化指定の辞退のため、大学の西田孝宏・総監督(67)とともに全柔連を訪ねた。西田監督が経緯を説明。最後に出口選手はあいさつを促されたが、言葉が出てこない。しばらくの沈黙の後、涙があふれ出した。「今まで強化指定してくれたことへの感謝。日本人じゃなくなることへの不安。思いがあふれてきたのかな」と西田監督。葛藤を抱えながらの選択だった。