素材を変えて価格は約2倍に値上げ、ポーターが看板商品の大胆リニューアルに踏み切った事情
長く使ってもらうために、製品の修理を受けているが、縫い目を丁寧にほどき、傷んだところを直し、再び縫い合わせる。新しいものを作るより手間がかかるケースもあるそうだが、欠かせない役割として続けている。「PORTER OMOTESANDO」のショップの一隅には、修理コーナーが設けられていて、職人さんが修理している様子を目の当たりにできる。 「一針入魂」は吉田カバンの社是ーー文言の通り「ひと針ひと針、魂を込めて縫わなくてはいけない」ということだが、その精神が、新製品から修理品までに行き渡っていることが伝わってくる。
■つないできたバトンを未来に渡していく 「僕は、恐らく、創業者の姿を目の当たりにした最後の社長なので、そもそもの志や、さまざまなエピソードを伝えていくのが、役割の1つととらえています」(吉田さん)。自分が体験したことにとどまらず、長い付き合いのある工場の職人さんや、取引先で耳にしたエピソードも含め、社内に伝えることを心がけている。 「吉田カバンとかかわってきた人がつないできたバトンを、未来に向けて渡していくことも、僕が担う大事な役割の1つととらえているのです」
ただ、歴史あるブランドを取材してつくづく感じるのは、創業時の志にはじまり、歴史の中で紡がれてきた挑戦の数々を知ると、そのブランドの奥行きを改めて知り、価値を感じるということ。逆に言えば、そこが伝わりきれていないブランドは無数にある。吉田カバンの未来へのバトンは力強いものになっていくだろうか。
川島 蓉子 :ジャーナリスト