過去を想う人、現在に没頭する人、未来を見つめる人…3つのタイプの時間感覚
3つのタイプの時間感覚
精神科医の木村敏氏は、『時間と自己』(中公新書、1982年)のなかで人々の心的な時間感覚を3つにわけています。「アンテ・フェストゥム(祭の前)」、「イントラ・フェストゥム(祭の最中)」、「ポスト・フェストゥム(祭の後)」の3つです。この本では、「アンテ・フェストゥム(祭の前)」は統合失調症の人の時間感覚、「ポスト・フェストゥム(祭の後)」は鬱病の人の時間感覚というように、精神病理と時間感覚の関係が論じられています。 ある日の授業で(私は大学教員なのです)、たまたま、この3つの時間感覚の話をしたところ、多くの学生たちが過去や未来についての感じ方を教えてくれて、私は人によって時間感覚が違うこと、そこにはそれぞれの人の傾向性があることを改めて理解したのでした。そこでここでは、木村氏による「祭の前」「祭の最中」「祭の後」の3つの分類を援用しつつ、私たちの時間感覚をみていきたいと思います。
ポスト・フェストゥム(祭の後)
「祭の後」感覚が強い人は、「あの時、こうしていればよかった」という後悔に日常的に苛まれているようです。進学や就職など進路をめぐる後悔なども心に大きくのしかかります。お店でご飯を食べた後も「あちらを食べればよかった」などと悔やむようです。 他方で、この傾向がポジティブに出る場合、過去は美しいもの、よきものとされ、昔のことを「あの頃はよかった」と回想するといいます。アルバムが好き。同窓会が楽しい。思い出の品をあれこれ持っている。そんなプラスの側面もあるようです。 「中学生の頃は小学生の頃がよかったと思い、高校生になると中学時代はよかったと思い、大学生になった今は高校時代がよかったと思いながら生きています」という大学生は私のクラスには毎年一定数います。 「あの頃はよかった」という感覚は、ある程度年をとった人が持つ感覚だと私は思っていたので、常に過去を懐かしむように生きている若者がたくさんいることを知った時はずいぶんと驚いたものですが、過去への憧憬に、年齢は必ずしも関係してこないようです。 19歳の学生が「昔はとても楽しかった」と過去に思いを馳せる一方で、50歳手前の私には過去を懐かしむ気持ちがまったくないので、いくらか不思議な気持ちになります。よかったと思える「あの頃」が自分になくても(むしろないからこそでしょうか)、私は若い学生たちの「思い出話」を聞くことが好きです。大切にできる思い出があるって素敵です。
