女性を金づちで撲殺し、強盗殺人罪で服役40年。人生の大半を刑務所で過ごす70代男の「罪の意識」と「社会復帰」
70代の山本正男受刑者=仮名=は無期懲役の判決を受け、徳島刑務所(徳島市)で刑に服している。犯した罪は強盗殺人。事件を起こしたのは1970年代、20代の時だ。 【写真】刑務所の前で「出待ち」を毎朝する男性、何をしている? 「刑務官はいい顔をしないが、やめられない」同行して分かった理由
勤務先の社長の家から現金十数万円を盗み、居合わせた社長の母親を金づちで殴って殺害した。「いまだに心に残るくらい強烈なうめき声だった」。恐怖を打ち消そうと、思わず火を放った。事件を起こした動機は「遊興に明け暮れて妻の出産費用に困った」。一審では死刑判決だったが、二審で無期懲役になった。 殺人などの罪で服役する無期懲役受刑者は、人生の大半を刑務所で過ごすことになる。彼らは過去とどう向き合い、何を思って過ごしているのか。無期懲役受刑者を多く収容する徳島刑務所で、3人の受刑者がインタビューに応じた。1人目は刑務所で約40年過ごしてきた山本受刑者だ。(共同通信=今村未生) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ※刑務所内で撮影したルポ動画は「共同通信YouTube」でご覧ください。 ▽「幸せ」の意味がわからなかった 山本受刑者は4人きょうだいで、寺に関連する施設で育った。両親の顔は知らなかった。小学5年のころ、山本受刑者だけ「グレて」、別の施設に移った。「きょうだいの愛情は全く感じた事がなかった。『幸せ』という言葉の意味は分かる。だけど幸せだった記憶がない。本当の『幸せ』の意味が分からない」。人を信用できず、友達もいなかった。
事件前、姉が戸籍をたどって母親を見つけ、一度だけ会うことができた。しかし、その母親は服役中に亡くなったという。 ▽死刑判決で「自分見失う」 一審では死刑判決を受けた山本受刑者。そのころ、体に不思議なことが起きた。1、2カ月間、全く声が出なくなり、神経が過敏になった。「聞こえるはずのない蛍光灯のバチバチという音が聞こえる。自分自身を完全に見失っておかしくなっていた」 二審は無期懲役判決だった。「重しが薄れたような感じ」がした。上告はせず、刑は確定した。「死に対しておびえる死刑と、ほんのわずかでも希望を持てる無期懲役刑は全く違う」 ▽事件で失った絆、生まれた絆 徳島刑務所に服役して約40年。事件後に生まれた息子のことは片時も忘れていない。「〇月〇日〇時〇分〇〇〇〇グラムで生まれた。これはずっと頭に入っている」 裁判のため拘置所に収容されている時に、息子と面会した。当時妻が送ってくれた写真は大切に持ち続けている。だが、妻とは裁判中に離婚し、家族としての縁は切れた。