「納豆日本一」に輝いた食品メーカーの粘り強い組織変革 4代目が意識した従業員への「声かけ」
従業員の意識統一で最優秀賞に
菅谷食品は毎年、納豆の品質を競い合う「全国納豆鑑評会」に出品していましたが、2005年に優良賞を受賞して以来、賞から遠ざかっている状況でした。価格競争の激化で高価格帯の菅谷食品は苦戦し、赤字も続いていました。 安易に価格を下げる戦略は取れません。消費者への付加価値を高めるため、関本さんは2009年ごろ、義父と2人で自社ブランド製品の大豆を国産に一本化。一部には有機栽培の大豆を使用し、差別化を図りました。当時、有機栽培の大豆は問屋も扱っておらず、北海道の農家から直接仕入れました。 2015年ごろから、関本さんは年1回、従業員全員との個人面談も始めました。業務改善や個々の状況に合わせた働き方の調整ができるようになり、「例えば2度に分けて行っていた作業をラインに組み込むことで、1度で済むようになり効率が上がりました」 それまでは鑑評会への出品すら社内で知られていなかったといいます。関本さんは朝礼で鑑評会の話題に触れるなど、従業員の士気も高めようとしました。 2015年の鑑評会で、主力商品「国産大粒つるの子納豆」(現在は「つる姫納豆」にリニューアル)が最優秀賞の農林水産大臣賞に輝き、日本一に昇り詰めました。 「市販品の中から状態の良い納豆を出品するので、日ごろの努力が認められた気がしてうれしかったです。自分だけがやりたいと思ってもダメです。従業員全員が同じ方向を向いて取り組んだからこその受賞でした」 関本さんは同時に工場の設備投資を進め、機械化にも着手。納豆のパックを自動でコンテナに入れる機械を導入したり、ラベルを巻く機械にパックを入れる作業も自動化したりして、効率を上げました。
「待つ」営業で大口契約が増加
関本さんは2016年、専務に昇格し、営業も兼任することになりました。営業は初めてでしたが工場での経験が強みになったといいます。「一度に出せる商品の量や生産量などがわかるため、顧客から要望を受けた場で判断や調整ができました。タイムラグを作らないことで信頼を得ました」 高価格帯を扱うスーパーや自然食品を扱う店などへの販路開拓を進めました。「短期的な売り上げを求めて焦った売り方をすると『なぜこんなに値段が高いのか』と突っ込まれます。商品の魅力を丁寧に説明し、その後は待つ。この姿勢が大事なんです」 有名な高級スーパーにも営業をかけ、前任者と合わせて約5年がかりで契約を獲得しました。「当時のバイヤーが青梅にゆかりがあり、説明申し上げて待ったところ興味を持ってもらえました。そこで押したんです。担当者が変わっても扱って頂いています」 関本さんは自社のブランディングも兼ねて設備投資を推し進めました。下から蒸気を送ることができる大豆の蒸し釜は1台しかありませんでしたが、2022年に全4台をその窯に入れ替えたのです。 最優秀賞の納豆はこの製法でしたが、全商品ではなかったため、営業活動でも「一部製品がせいろ蒸し」としか言えなかったといいます。「全商品を作れるようになったことで『大江戸せいろ蒸し』と名付けて前面に出しました」 主力商品の「国産大豆ひきわり納豆」が、2017年から6年連続で鑑評会の特別賞を受賞するなど、成果を出し続けています。関本さんが営業を兼務してから大口契約は10件以上増加しました。