A.ランゲ&ゾーネ「時計は感動が命」 “ウオッチオタク”が語る開発の流儀
■複雑機構支える 大きな投資とチャレンジ
――でも他ブランドに「やられたな」という時はあるのではないですか。 「クロノグラフでダブルスプリット(経過したスプリットタイムの秒と分を計測できる機構)を2004年に発表した後、次はトリプルスプリット(経過したスプリットタイムを秒、分、時まで計測できる機構)を世に出そうと取り組んだのですが、完成したのは2018年になってしまいました。それだけ開発に時間がかかる難しい機構だったのですが、万が一、他社に出し抜かれたらどうしよう、と心配はしましたね。結局どこも出しませんでしたが」 「複雑な機構を開発するには大きな投資とチャレンジが必要です。ところが近年は、スイスの歴史ある大手ブランドにも、リスクを負って投資する姿勢が見られません。実際、新作と銘打って発表される製品は、過去に売れたモデルのリメークばかりでしょう? 幸いというか、ランゲはゼロから始めたブランドで、ビンテージコレクションはありませんから、過去は振り返らず、常に新しいものを努力して作っていく精神が染みついています」 ――日々緻密なお仕事をされていて、疲れもストレスもあるかと思います。リフレッシュ法は何かありますか。 「自分の家に時計のアトリエがあるんです。これは仕事ではなく、純粋な楽しみ。友達の時計を直してあげることもあります。あとは料理が大好き。庭にかまどがあって、みんなでバーベキューをします。料理をして人をもてなすのが大好きです」 聞き手:THE NIKKEI MAGAZINE 編集長 松本和佳 写真:岡村享則
岡村享則
フォトグラファー。大学で住居学を学んだ後、桑沢デザイン研究所へ通いながら建築写真家の事務所で修業。日本経済新聞社のスタッフカメラマンを経て独立。報道の現場経験から得られた柔軟な感覚で人や建築、インテリアを中心にライフスタイル全般の写真を撮る。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。