A.ランゲ&ゾーネ「時計は感動が命」 “ウオッチオタク”が語る開発の流儀
■時計は「楽しめることが大事」
――消費者が時計に求めているのは、そうしたエモーショナルなものであると。 「時計は芸術であり、アート作品です。アート作品というのは感動を呼び起こし、楽しめることこそが大事なのです。ランゲの時計を求めるお客様やコレクターは、自分に自信を持って製品を選んでいる。好きだから買い、評価できる。愛好家、目利きの人が多いのです。彼らにとって時計とは、その時計を着けることによって、自分自身のアイデンティティーを表に見せるという感覚なのだと思います」 ――ところでデ・ハスさんが担う商品開発ディレクターは、どのような範囲の仕事をカバーし、どのようなプロセスで新作を生み出すのですか。 「チームは55人で、外装や文字盤などを担当するプロダクトデザイナー、プロトタイプを作る人、ムーブメント開発チーム、セールス、広報などに分かれています。新作の開発において、その方向性は私が個人で決めるのではなく、55人のチーム全体で考えていきます。開発スパンはおよそ5年。メンバーは技術的にすぐれ、鋭敏な感覚を持っていますが、私もできあがったものについて『もっと幅を太く』『ここを短く』といった具合に細かなオーダーをいれていきます。ドイツでランゲに携わるメンバー全員が驚くほどのパッション、こだわりを持ち、ブランドを愛しています。この飽くなきパッションがあるからこそ、完成度の高い時計が作れるのだと思います」 ――デ・ハスさんは業界の一歩も二歩も先を行く複雑機構を発想し、実現されています。そのアイデアの源泉はどこにあるのでしょう。 「会社です。自分たちの会社の中からアイデアの発想が次々と出てくるのです。ムーブメントの例を挙げてみましょう。ムーブメントは現行のラインアップで16種類製造しています。これに関わるデザイナーは10人ほどいます。彼らは新しい規格を生み出す場合もあれば、従来の製品を改良し、さらに革新的なものに昇華させる場合もあります。1つのヒントに頼るのではなく、メンバーがアイデアを持ち寄り、話し合う中で新たな発想を生み出していきます」 「市場のニーズを探るマーケティングも考慮するし、他ブランドの動向にも興味はありますが、まねをすることは一切ありません。時計はアートですから。アートには好き嫌いがあるので、どこのブランドが何を作ろうと比較の対象にはなりません。競合、という概念は私にはないのです」