『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 【第2話】 仕事は汚いほど金になる
「ほなもっとおとなしゅうせんと。あんたら田舎モンは田舎モンらしゅう、京都に住んでる人の迷惑にならんよう、息も止めてなあかんのよ。ほら、息止めて」 Aが本当に自分の息を止めようとする。冗談がわからないのだろうか。 するとこちらが思いがけない行動に出た。隠していたスマホで警察に連絡するでもない、隠し持っていた銃で撃つでもない。私に向かって音がしそうなほど土下座をしたのだ。 「思い違いしてん? 謝ってほしくて訪ねてきたんとちゃうねん」 つい頬が緩んでしまう。こういうときにイヤミが出るから、県外の人間は京都人を「いけず」と呼ぶのだろうか。 Aが細い背中を見せていた頃、Bは息も絶え絶えに、私に向かって吠えた。 「おい、おまえに殺されたってな、俺はバケて出て、おまえの娘を犯してやるからな」 ニヤリと歯を見せた。黄色い歯と歯の隙間が血で滲(にじ)んでいた。 私の顔からはきっと、表情というものが消えていただろう。 「ほなあんじょうきばりやす」
【いまわの際で、ふたりへの愛を抱いていたら、それは確実に私だ】
私はBに向けて何発も発射した。蜂の巣のように開いた穴から血飛沫(しぶき)を上げるヤンキーBの骸(むくろ)を見下ろす。しかしながら私はこの男を褒めてやりたかった。 自分はもう助からない。長い時間をかけて甚振(いたぶ)られるより、ひと思いに殺されようとBは決めたのだ。私が冷静さを失い、銃弾が窓ガラスでも割ったらシメたものだ。ホテルのスタッフが駆けつけるかもしれない。 そこまで頭に入れて私を侮辱した。考えすぎだろうか。 Bは安らかな死を甘受できて、笑っているように見えた。私は少し腹が立って、Bの脳天にもう一発、銃弾を御見舞いした。 横でガタガタと震えながらAが叫ぶ。 「お願いです! 何でも言うことを聞きます! 命だけは助けて下さい!」 人は追い込まれるとドラマや映画で見た陳腐なフレーズを口にする。なぜなのか。ドラマや映画と同じように、無惨な死に方しか用意されていないのに。 「お金なら全部あげます! お願いします!」 私はAを見下ろす。それから普段通りに、淡々と仕事をこなした。 部屋を出る際、フロントにAの声色を真似て、「眠いから絶対起こすなよ」とひと言いい残してきた。発見が遅れることで、警察は容疑者を絞ることが難しくなる。