〈食べログ3.5以下のうまい店〉季節ごとに通いたい! フードライターを魅了する、松濤の一軒家フレンチ
サクサクとカカオのほろ苦さが感じられるパイに、鮎の香ばしいうまみや苦みに、鹿の血のサバイヨンが寄り添い、味をまとめてくれる。ブーダン・ノワールのイメージよりもかなり軽やかで、まろやかかつ余韻が美しい芸術的な一品だ。
コース終盤にはセロリが爽やかに香るデセールが登場
コースの終盤も驚きに満ちている。セロリをハーブに見立てたデセールが、夏のこの時期にテーブルを彩る。ヨーグルトのムース、セロリのコンフィチュールをセロリとベルガモットのゼリーで巻き上げ、その上にヨーグルトとライムのシャーベット、マリネした角切りのセロリ、マイクロセロリ、セロリのオイルを垂らしたセロリ尽くしのデセールだ。乳製品に青い味わいの食材が合うことに目をつけた一品で、青々とした草原で深呼吸するかのように、爽やかなセロリの味わいが口の中を駆け抜ける。
「日本では完熟したイチゴなど、そのまま食べてもおいしいもの、特に甘くてやわらかい食感の食べ物が重宝されていますが、一方で規格外のサイズや味のもの、摘果(果実の間引き)で廃棄されてしまうものも多い。修業していたフランスではよい食材がいつも手に入るわけではなかったので、その分どんな食材でも料理をすることでおいしくなるようシェフたちが手を尽くしていました。その経験が今に生きています」と松本シェフ。
実際にお付き合いのある農家からは、剪定されたブルーベリーの葉を仕入れて煮だしてお茶にしたり、摘果された青いフルーツを仕入れて漬物にしたりと、工夫が見られる。その考えはもちろん、食肉にも反映されており、害獣として駆除されたジビエも積極的に使用しコースで振る舞う。質の高い食材の力に頼るのではなく、新たな視点から食材のおいしさを引き出す松本シェフ。季節ごとに通いたい一軒だ。
※価格はすべて税込、ウォーターチャージ料(1,100円)別 ※支払いはクレジットカードのみ
啓蟄
住所: 東京都渋谷区松濤2-13-12 TEL: 050-5600-9397
撮影:佐藤潮 文:中森りほ、食べログマガジン編集部