〈食べログ3.5以下のうまい店〉季節ごとに通いたい! フードライターを魅了する、松濤の一軒家フレンチ
店名の「啓蟄」は二十四節気のひとつで、3月6日ごろを指す。土の中に蟄(かくれ)ていた虫たちが戸を啓(ひら)き地上に出てくるほど、寒さが和らぎ暖かな気候になる時期だ。ちょうどこの時期に開業準備を進めていたこと、和の趣を感じる建物だったこと、前向きな印象の言葉だったことからこの店名がつけられた。
“良い食材”に頼らず、手に入る素材を主役へと導く料理の数々
メニューは8品程度が提供される「ショートコース」(ランチでも提供、11,000円)と、15品前後が提供される「フルコース」19,800円の2種類のみ。より多くの食材、調理法、食べ方を楽しんでもらいたいと、少量多皿方式だ。これに5杯程度のハーフアルコールペアリング8,800円、8杯程度のアルコールペアリング13,200円をつけることができる。
コースメニューは固定ではなく、その時々にとれる旬の食材を尊重した料理が特色だ。松本シェフは盛り付けに関しても、統一された美しさではなく、不均一な素材の形を生かしながら偶然できあがる美しさを大切にしている。
アミューズとして通年提供されるジャガイモのフリットも、ジャガイモの新たな扉を開いてくれる一品だ。刺身のツマのように細くカットしたメークインを、流水で洗ってでんぷん質を抜き、ボール形の茶こしに入れて油で揚げている。
上にはレモンのジュレをのせ、炭化させたレモンの皮を削りかけ、カタバミの葉をトッピング。サクサクと小気味よい食感のジャガイモはイモの甘さとほろ苦さがあり、キリッと凛々しいレモンとカタバミの酸味が食欲をかき立てる。
ズッキーニの食感や味わいに焦点を当てた、アーティスティックな料理
森脇さん「私が食べた中では、春菊の料理が印象的でした。春菊という、通常は脇役的立ち位置の食材を主役に仕立てた一皿で、春菊のスポンジ、春菊のムースなど、春菊をさまざまに調理して一つにまとめたものです。深い緑一色の様相も素敵でした。」
夏のこの時期は、農家から仕入れた朝採れのズッキーニを主役にした、鮮やかな一皿が目と口を彩る。桂むきにしたズッキーニを重ねてフライパンでソテーし、ズッキーニの中央にあるやわらかい種の部分などで作り上げたピューレと、アンチョビと黒オリーブを合わせたソースをトッピングし、焦がしバターの泡を入道雲のようにあしらった。