〈食べログ3.5以下のうまい店〉季節ごとに通いたい! フードライターを魅了する、松濤の一軒家フレンチ
ランダムな緑のグラデーションが美しいミルフィーユのようなズッキーニは、薄いのにしっかりコリコリとした食感だ。焼くことで香りの良さが際立ったズッキーニに、焦がしバターとアンチョビのうまさが加わり、しっかりワインに合う味わいと満足感がある。えぐみを感じやすいズッキーニの種部分はピューレにすることで、青い味わいが苦手な人でも親しみやすくなっている。構成要素を減らしたシンプルな料理で勝負する、シェフの潔さと腕の高さが表れた一皿だ。
森脇さん「シンプルでいてエレガントな料理だと思いました。決して盛り付けが派手なわけではないのですが、一つの素材をさまざまな角度からアプローチしていたり、おなじみの食材をそれまでとは全く異なる手法で仕立てたりする意外性も魅力です。高級食材をことさら多用しないところも好ましいですね。」
料理に合わせてペアリングしてもらったのは、スイス産のシャスラという品種を使い、シュール・リー製法で醸した白ワイン。果実味が少なくうまみがのっており、乳酸っぽい香りやチーズのような味が、ズッキーニの風味を引き出してくれる。
鮎のパイ×鹿の血のムースをエレガントな一皿に昇華
松本シェフのすごさは、高級食材や質の高い食材に頼らず、手に入る食材の魅力をさまざまな角度から見せるプレゼンテーション能力の高さにある。この日の魚料理には、今が旬の岐阜県産の鮎を使った一品が登場したのだが、合わせたのは鹿の血のサバイヨン(ムース状のクリーム)。これは日本では困難とされる鹿の血の出荷を合法的に行える手段として、糸島ジビエ研究所との出合いから生まれた一品だ。
畜肉の血を使ったフランス料理というと、黒ソーセージのブーダン・ノワールが一般的だが、それでは捻りが少ないと考えた松本シェフ。鹿の血でソースを作っていくと、チョコレートクリームのようなニュアンスを感じ、鮎の内臓の苦みや動物性の油のコクが、このソースと合うのではないかと考えたという。
フランス料理では青魚、川魚とパイがよく組み合わせられることに着目した松本シェフ。パイはチョコレートのミルフィーユから着想を得て、カカオで仕立てることにした。小麦粉とココアパウダーで作ったカカオのパイの生地で、ソテーした鮎と、鮎の内臓と黒ニンニクで作ったムースをサンド。その横に、卵黄と生クリームと鹿の血を加え、火入れしながら泡立てたサバイヨンを添えた一品が完成した。