ディズニーホテルの経営トップは、なぜ「ホテルめぐり」を続けるのか?
ひとつはハード面。ホテルのパブリックスペースや、客室内がどんなつくりになっているかをつぶさに観察します。これは個人的に興味があるからかもしれませんが、プライベートでホテルを利用しても、「どんなつくりになっているのだろう?」「こういう理由で、こんな工夫をしているのだろうな」とホテルの裏側を想像してしまうのがクセになっているのです。 たとえば、以前すこし狭い客室のホテルに泊まったときのこと。客室に入ってすぐにクローゼットのスペースがないことに気づき、残念だなと思っていました。 しかしよく見ると、入ってすぐの壁と平行に間仕切り板があり、壁との間に隙間がつくられていて、そのなかにフックがあったのです。上着が2枚、重ねずにかけられる仕様になっていました。省スペースでありながら、顧客の要望には応える、よく考えられた工夫だなと感心しました。 もうひとつ、顧客として観察するのはホテリエのサービスです。自分はどんな場面で、どんなサービスをしてもらったか、そしてそのときにどんな感情を抱いたかを覚えておく。これは、いちばんわかりやすい「顧客目線」の蓄積だと思います。 たとえば近隣施設の情報を知りたくて、地図やガイドブックを開いているときに、「なにかお探しですか?」「どちらまで行かれるのでしょうか?」など気を利かせて声をかけてくれれば、満足度は大いに向上するでしょう。 実際、ホテルのレストランの前で「どんなメニューがあるのだろう?」「子ども連れでも大丈夫かな?」と不安に思っていても、わざわざホテリエを探してまで質問する人は多くないはず。ほとんどの場合は「聞くほどでもないし」「面倒だから」と、不安を抱えたまま過ごします。 そんなとき、「あのお客さまはもしかしたら困っているのかも」と察知したホテリエが声をかけてくれたら。小さな困りごとを解決してくれたら。これだけでも非常にうれしい出来事として記憶に残るはずです。 ひとつの仕事に長年従事していると、いつの間にか「顧客目線」を忘れ、企業側の論理だけで物事を考えてしまうものです。顧客だった自分を思い出すためにも、意識的に「お客さん」になる機会を設けましょう。そして、参考になる部分は積極的に取り入れ、気持ちの良くないサービスは反面教師として肝に銘じるのです。 わたしはいまも、率先してホテルめぐりを続けています。
チャールズ・D・ベスフォード