切り札という意味のすごい名前のミニ、エースマンに試乗 ゴーカート・モードはとびっきり元気!
新世代ミニの意欲作!
近年のミニ全モデル刷新の源であるコンセプトカーと同じ名を掲げて登場した新種のミニ、エースマンがいよいよ上陸した。 【写真16枚】内装も外装も見た目のインパクトは強烈 見どころ満載のミニ・エースマンの詳細画像はこちら 2022年7月に登場したミニの5ドア・ハッチバック・コンセプト、エースマンは画期的な1台だった。短い前後オーバーハング、切り立つ窓、ショルダー・ラインと水平(かつやや後ろ下がり)に伸びるルーフなど、ミニ・デザインのお約束はきっちり守っている。でもLEDライトやグリル形状にエッジを効かせ、さらに躍動感が出るよう、斜め後方側だけをスパッと切り落としたようなオーバーフェンダーを採用し、SUVらしい力強さを加えていた。バンパー下部および四隅だけを樹脂で少し上まで覆うのはBMWのSUV各車でも見られる手法だが、そのまとまり具合はほんとうに見事だった。 加えてファブリックを多重構造化し光が透けるという、とにかく凝りに凝った内装をはじめ、徹底したデジタライズ化や、巨大な丸形液晶など、インフォテインメント系への注力の度合いは、そら恐ろしくなるほどだった。 ◆切り札であり主力 しかもエースマンはコンセプトカーにありがちな、絵に描いた餅じゃなかった。英国旗状に光るグリルなどのアイデアこそ実現しなかったが、その内装の仕立ては新世代ミニが次々と採用。さらに全長4m強、全幅約1.75m、全高1.5m強というサイズも、その外装も、そしてその名もすべてそのまま、市販モデルとしても登場したのである。 これにはちょっと驚いた。なにせ近年のミニは、カントリーマンやクラブマンなど、往年の名称だけを採用している。もちろんかつてとまったく同じキャラクターではなく現代的解釈を加えてはいる。でも、一時のようにクラシック・ミニ一族には正式に存在しなかったクーペやロードスター、ペースマンのようなモデルの登場はなかったからだ。 オフローダー的な見た目と、現代版のミニのご本尊たる3ドアとプラットフォームを一部共有し、床下にバッテリーを置く1モーターの前輪駆動車であることなどを踏まえれば、同じく前輪駆動だった古のミニ・モークあたりの名を継いでもおかしくはない。でも、過去は振り返えらなかった。エースマンとは、ミニの一族におけるエース、つまり切り札であり主力を意味するという。 乗って都心を走り出してみれば、確かにその名の通りの強い強い求心力がエースマンにはある。近頃は新しい世代のミニを見かけることも増えてきたが、見た目のインパクトはさらに上だ。ミニ乗りかどうかを問わず、周囲からの強い視線を、何度も感じることになったのである。 ただし、ミニとしての統一感は抑えつつ、新しい世界を築こうと心を砕くあまり、手の回っていない部分もあると僕は感じた。特に足まわりの仕立ては、背の高いスタイリングを得て引き上げられたフェンダー内の空間を活かさず、サスペンション・ストロークを3ドアと共通にしているためか、試乗車のオプションの大径ホイールとの相性がうまくない。登録直後の試乗車だったとはいえ、上下方向の落ち着きが足りず、特に座面の前後が短い後席は身体の押さえが効かない。これは上位グレードのSEもエントリーのEも共に同じ傾向だった。 モーターの特性をフルに活かす走行モード“ゴーカート”などで、隙あらばアクセレレーターをどんどん踏んで走るようなシチュエーションではある程度ハマるし、そのとびっきりの元気の良さにはニヤリとさせられる。だが少なくとも現時点では電池の重さと重心の低さを活かし、内燃エンジン版より少し落ち着きを増した味わいになった電動版の3ドアの方が、エースマンよりもミニとしての統一感があると、僕は思う。 誰にでもミニであるとひと目で伝えなければならない。そう徹底された世界の中で、何か新しいことをするのはとても難しい。でもエースマンはその萌芽があちこちに感じられる意欲作である。改良を続け、愛され続ければ、新たな歴史を作ることだってある、かもしれない。 ■ミニ・エースマンSE 駆動方式 フロント1モーター前輪駆動 全長×全幅×全高 4080×1755×1515mm ホイールベース 2605mm 車両重量 1740kg モーター形式 交流電気電動機 総電力量 54.2kWh 最高出力 160kW/7000rpm 最大トルク 330Nm/50-4500rpm 航続距離(WLTC) 414km トランスミッション 1段AT サスペンション (前) マクファーソンストラット+コイル (後) セントラルアーム式マルチリンク+コイル ブレーキ (前後) 通気冷却式ディスク タイヤ (前後) 225/40R19 車両本体価格 556万円 ■ミニ・エースマンE 駆動方式 フロント1モーター前輪駆動 全長×全幅×全高 4080×1755×1515mm ホイールベース 2605mm 車両重量 1670kg モーター形式 交流電気電動機 総電力量 42.5kWh 最高出力 135kW/5000rpm 最大トルク 290Nm/1000-4000rpm 航続距離(WLTC) 327km トランスミッション 1段AT サスペンション (前) マクファーソンストラット+コイル (後) セントラルアーム式マルチリンク+コイル ブレーキ (前後) 通気冷却式ディスク タイヤ (前後) 225/45R18 車両本体価格 491万円 文=上田純一郎(ENGINE編集部)写真=山田真人 (ENGINE2025年2・3月号)
ENGINE編集部