『ライオンの隠れ家』“普通”の言葉がなぜ響く? 徳尾浩司×一戸慶乃が語る脚本制作の裏側
“名言”ではないからこそ伝わる言葉
ーー例えば、SNSとかでバズりやすい、強く刺さる名台詞のような脚本はたくさんありますが、一つ一つが普通の言葉なのに、この人がこの流れ、この状況でこんな顔でこれを言うから沁みるんだと思わせてくれるのが、まさしく「ドラマ」ではないかと思います。気持ちスタートだからこそ、この人はこんなことは言わないというジャッジも大切ですか? 一戸:そうですね、たくさん考えました。また、「ありがとう」とか「ごめんね」とか、ありふれた言葉にこそ、その人の思いがにじみ出て温かいものになるんだなあと特に放送を観て感じました。場合によっては、いわゆる名言みたいなものを書きたくなるときがあるかもしれない。でも、自分がやっているのはセリフを書くことじゃなく、人間を描くことだから、それを忘れないでいたいなと思いますし、制作中もずっと意識していましたね。 徳尾:そこがこのドラマのいいところだなと思います。このドラマの名台詞って何だっけと聞かれたら、何も思い出せない感じがいいし、打ち合わせをしていて「ここの台詞は何がいいかな」と大喜利大会になっても、結局出てくるのが「疲れるなあ……」だったりして。特徴的なセリフではないんだけど、そこに到達するまでのストーリーや過程がしっかりしていれば、セリフは逆にありふれたものでもいいということに気づきました。 ーーその思いは視聴者に届いていますよね。最後に、最終回に向けてサスペンスもヒューマンも、どんなゴールに向かっていくのかを教えてください。 一戸:最終回に向け、サスペンスの中でもより人間的な部分が描かれていきます。そして、洸人と美路人があらゆる選択肢の中で何を選びどう生きていくのか。じっくり描けていると思うので、温かく見守っていただけたらと思います。 徳尾:いろんなものを背負って頑張ってきた主人公が、最後の最後にようやく自分のことを考えられるターンがやってきて、視聴者の皆さん全員が、一歩を踏み出す洸人を応援したくなるような最終回になっていると思います。是非テレビの前で、未来に向かう洸人の背中をそっと押してあげてほしいです。
田幸和歌子