約84%の隕石の起源を新たに特定 これまでの約6%から大幅に増加
また今回の研究では、地球近傍小惑星の軌道解析と隕石の量から、LLコンドライトは1500万年前に衝突を経験した弱い証拠のある「フローラ族」を起源とすると推定しています。 そして今回の研究では、上記と同じ研究手法を、隕石全体の4.4%を占める炭素質コンドライトにも当てはめました。その結果、炭素質コンドライトのさらに細かい分類であるCMコンドライトとCRコンドライトは「ヴェリタス族」、CIコンドライトは「ポラナ族」、COコンドライト、CVコンドライト、CKコンドライトは「エオス族」を、それぞれ主な起源とすると推定されることが分かりました。 特にCMコンドライトの起源とみられるヴェリタス族は、830万年前に経験した衝突で大量の破片を生じたと考えられています。その豊富さと衝突年代の新しさから、計算上は炭素コンドライトは普通コンドライトと同じくらいの数だけ地球に落下しているはずです。この矛盾は、炭素質コンドライトが普通コンドライトと比べて脆いため、大気圏突入に耐え切れずバラバラになってしまうことが関係していると研究チームは考えています。もしその場合、隕石そのものは滅多に見つからないものの、海底に堆積している隕石由来の塵の量から間接的に量を推定できるはずです。これはこれからの検証を待たなければならないでしょう。
隕石サンプルの著しい偏りを証明
今回の研究では、普通コンドライトと炭素質コンドライト、合わせて83.8%の隕石の起源を特定しました。プレスリリースで使用された「特定した(identified)」という表現は、研究内容の確かさに関する自信のほどが伺えます。この研究以前に知られていた隕石も合わせれば、私たちは89.8%の隕石の起源を特定したことになります。 特に、隕石全体の71.2%を占めるHコンドライトとLコンドライトは、ごく最近に起きたたった3回の小惑星同士の衝突によって生じた破片に由来することは驚きです。Lコンドライトの起源と特定されたマッサリア族は、隕石全体の37.8%を占める、最も大きな隕石のグループでもあることになります。 今回の特定は、隕石を通じた研究を行う上では問題となるかもしれません。先述した通り、普通コンドライトは、太陽系誕生時の情報を持つタイムカプセルのような扱いです。しかし、実に約7割の隕石が、たった3つの小惑星族に由来するならば、そのサンプルには著しい偏りがあると考えることができます。宇宙には多種多様な性質を持つ無数の小惑星があることを考えれば、この偏りは無視できません。 隕石は、宇宙に行くというコストをかけずとも、宇宙を知る手がかりを持てる貴重なサンプルです。しかしサンプル自体に偏りがあるとするならば、その偏りを是正するために宇宙へと飛び出すことも考えなければならないかもしれません。この研究は間接的に、小惑星探査機で小惑星のサンプルを持ち帰るサンプルリターン計画を後押しするかもしれません。 小惑星からのサンプルリターンは、これまでにJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「はやぶさ」が訪れた「イトカワ」と「はやぶさ2」が訪れた「リュウグウ」、およびNASA(アメリカ航空宇宙局)の「OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)」が訪れた「ベンヌ(ベヌー)」のみが成功しています。イトカワはLLコンドライト、リュウグウとベンヌはCIコンドライトに類似していますが、これらはいずれも珍しいタイプの小惑星です。 これまで、サンプルリターンを行う意義は、隕石では避けることが困難な地球の物質による汚染を回避することが主に語られていました。しかし今後は、サンプルの偏りを是正するためという追加の説明が加わるかもしれません。 今回の研究により、起源が未知な隕石は10.2%となりました。研究チームはこの残りの起源についても、5000万年以内に起きた比較的新しい小惑星同士の衝突を焦点に探索を行う予定です。