なぜ、他人への嫌悪感は生まれるのか? 人間関係を複雑にする「思い込み」
「嫌い」より「好き」を増やすと人生はラクになる
「これ(この人)は嫌だな」という嫌悪感を抱いたら、まずはそれが必要なものか、不必要なものか、考えるクセをつけましょう。身に危険が及ぶようなことに対する嫌悪であれば、その感覚は正しいと思って構いません。 これに対し、自分の命や生活を脅かすわけではないにもかかわらず、その対象に対して生まれた嫌悪であったら、たんなる自分の思い込みと妄想だと考えるようにしましょう。 自分の生い立ちや環境によって形成され、刷り込まれてきた"独自の基準"であり、それを相手に求めてはいけない―そのようにとらえてください。必要な嫌悪と不必要な嫌悪を見分けられるように努めることにより、観察力が身につきます。 そして、それまで自分が嫌だと思っていた対象の、新たな一面が見えてくることもあります。 「ずっと気に入らなかったけど、いいところもあるじゃん。思いのほか面白いやつだった」 そんな心境に至ったらしめたもの。マイナスの感情をプラスに転じさせることに成功した証拠です。自分にとって嫌いなものを排除し続けている限り、世界は開けませんし、心も苦しいままです。それよりも受け入れることで可能性を広げていくほうが、あなたの心もラクになっていくはずです。 一見、不愛想で怖そうだな......と思っていた人が、話してみたらものすごく良い人だった、というようなことはありませんか? 誰にでも、きっとあると思います。その感覚を大事にしていってください。
先輩が教えてくれた「思い込み」の外し方
私が空手を始めたころ、同じ道場にどうにも苦手な先輩Mさんがいました。苦手というのは生ぬるい......正直にいえば、大っ嫌いでした。道場の先輩方はみんな、私より年齢も経験も上の実力者ばかりで、初心者の私が敵うわけがありません。当然、諸先輩方はスパーリングのときはいつも手加減をしてくれていました。 ところが、Mさんはいっさい手を抜いてくれません。スパーリングですので、ボコボコとまではいきませんが、いつもコテンパンに叩きのめされました。 「こっちはまだ初心者なんだから、そこまですることはないだろう」 「Mだけは絶対に許せない」 いつもそう思っていました。 そして時は流れ、私が競技引退をかけて臨む全国大会の試合がやってきました。すると、その試合が決まるやいなや、Mさんからぶ厚い封筒に入った大量の便せんが送られてきました。 目を通してびっくり。なんとそこには、私の技のクセや長所・短所が、びっしりと手書きで書き込まれていたのです。それだけでなく、試合の戦い方やペース配分などのアドバイスも、イラスト付きで事細かに記されていました。Mさんは、私の過去の試合のVTRを全部見返して、研究・分析をしてくれていたんです。 これには本当に驚きました。Mさんは私のことを嫌っていて、ずっと意地悪をされてきたと思っていましたので......。今ではMさんにものすごく感謝しています。と同時に、この話を思い出すたびに、不必要な嫌悪の無意味さを痛感します。 くり返しますが、自分が嫌いだと思っているものでも、冷静に観察していくと、違った側面が見えてくることがあります。その嫌悪は、自分の思い込みによってもたらされたものであることに気づきます。そして、新たな世界が広がります。ぜひとも、そこを目指してください。 不必要な嫌悪を原動力に行動しても、本当の意味での幸せを手にすることはできません。捨て去ったほうがはるかに、幸福で充実した人生を送ることができるのです。
大愚元勝(住職・慈光グループ会長)