きょうだいの死、病乗り越えたシロクマ「ピース」 飼育員が語る人工哺育「奇跡の25年」
「奇跡のような幸運」-。国内で初めて人に育てられたホッキョクグマ「ピース」(メス)が12月、25歳の誕生日を迎える。愛媛県砥部町の県立とべ動物園で四半世紀にわたってピースを育ててきた飼育員の高市敦広さん(54)は「大変だったけど、無事に大きくなってくれた」と感慨深げだ。ホッキョクグマの寿命は25~30歳前後とされ、最近は体重が落ちるなど老化を感じることもあるが、「一日でも長く元気に過ごしてほしい。そして、その愛らしい姿を全国のファンにみてもらいたい」と〝母グマ〟としての願いを語る。 【写真】高市さんに抱えられる生後43日のピース ■成功事例は2頭 ピースは平成11年12月2日、とべ動物園で飼育されていたオスのパールとメスのバリーバとの間に生まれた。同園では飼育設備などの問題で当初から人工哺育する方針だったが、一緒に生まれた別のメスの赤ちゃんがバリーバに噛まれた傷が原因で間もなく死んでしまったこともあり、生まれた直後から高市さんが育てることになった。 本来、細菌が繁殖しにくい北極圏で生息しているホッキョクグマは感染症などに弱く、当時国内で誕生が報告された122頭中、半年以上育ったのはわずか16頭。人工哺育にいたっては世界的にも2頭しか成功事例がないなど、育てるのは極めて難しいとされていた。 人工哺育のノウハウがほとんどない中、小さな命をどう育むべきか。高市さんは悩んだ末に「哺育計画を立てない」という方針を決めた。「全て手探りなので、ピースをよく観察し、何を求めているかを考えながら育てるしかないと思った」 高市さんは生まれた日からピースを自宅に連れ帰り、1室をピース専用にして「育児」にあたった。ミルクは当初、海獣用のものを準備したが、飲ませると便に脂肪分が多く出ていたため合わないと判断。さまざまな種類を試し、飲みがよく体重増加が確認できた犬用ミルクに行きついた。 当初は3時間おきにミルクを与えた。ピースに触れる前には両手を消毒するなど衛生管理を徹底した。本来寒い環境で育つため真冬でも暖房器具を使わず、寝るときは自分の胸の上にピースを乗せてにおいを覚えさせた。 排泄(はいせつ)を促すお尻のマッサージを嫌がって暴れ、厚手の服を着込んでいても体中あざだらけになった。車の後部座席に乗せて園に連れていく際にシートをビリビリに破られたことも。それでも「叱るとシュンとして『言っていることが分かる、賢い動物なんだな』と実感した」と振り返る。