きょうだいの死、病乗り越えたシロクマ「ピース」 飼育員が語る人工哺育「奇跡の25年」
■110日目の夜
「育児」に追われるうちに、気が付けば国内の人工哺育記録を更新し、生まれたときに約680グラムだった体重は4カ月での15キロほどに成長。そして一般公開が始まった直後の生後110日目、初めてピースを園に置いて自宅に帰った。四六時中付きっきりだった世話からようやく解放されたものの、ピースのことが気になって仕方がなかった。
「心配なんやろ?」。その様子を察した妻に勧められ、こっそり同園に戻ると、高市さんを呼ぶピースの鳴き声がクマ舎に響きわたっていた。「どれだけ連れて帰ろうと思ったか。でも、先のことを考えて心を鬼にして我慢した」。初めて体験する〝子離れ〟のつらさ。同時に「信頼してくれたのが分かり、うれしかった」と目を細める。
■子供、親、恋人
その後の道のりも平坦(へいたん)なものではなかった。
持病のてんかんが発症したのは3歳のとき。突然倒れてプールの中に落ちたピースをモニター越しに見つけ、駆けつけてピースの頭を抱えあげ何とか一命を取り留めた。7歳のときにはへそヘルニアも患った。高市さんはその都度、ピースが何をしてほしいかを考えながら愛情を注いできた。
ピースはその愛らしさが話題となり、その姿を一目みようと全国からも多くのファンが訪れる同園の人気者だ。高市さんとのふれ合いとピースの成長をつづった本や写真集も出版されている。
高市さんはピースとともに過ごしたこれまでの25年間を「大変だけど充実した日々だった」と懐かしむ。「自分の子供でもあり、さまざまなことを教えてくれた親でもある。そして、いとおしい恋人のようなもの」。ピースの存在はかけがえのないものになっている。(前川康二)
同園では、ピースの25歳の誕生日にあわせ、ピースのフェルト人形を抽選販売する。人形はピースの毛と羊毛を半分ずつ使用。今年3月の換毛期に抜け落ちた毛を集め洗浄・滅菌処理した。人形製作は北海道帯広市在住のフェルト作家、秋山聡子さんが担い、ピースがボールを持って寝そべる姿をかたどった。ピースの体毛を入れた小瓶付きで25セット限定、価格は1万2千円。同園に往復はがきで申し込む。11月15日必着。