津波で妹を失った女性が映画で訴える過去との離別…「風化はしない、あったことはあったことだから」
「がんじがらめでした。周りが抱く『被災者のそのみさん』からはみ出すことを、絶対にやってはいけないと思っていました」
そんな気持ちを、祐未に負わせた。何も経験できずに亡くなった妹を思い、「恋人も作らない、結婚もしない」と言わせもした。幼なじみへの反発を超え、祐未は自身と向き合い、本当の気持ちを探っていく。
「私のようにがんじがらめになっている子供、大人が地元に多い。『こういう考え方もありますよ』と、映画を通じて見せたかったんです」
語りきれなかった感情、ドキュメンタリーに
とはいえ、語りきれなかった感情もある。そこで映画学科の卒業制作として取り組んだドキュメンタリー「あなたの瞳に話せたら」(29分)で、それらを表現してみた。佐藤さんのほか、大川小の犠牲者の遺族や助かった同級生自身が、亡くなった妹や友達に宛てた手紙を読み、悲しみや喪失感を抱えつつ、前に進もうという気持ちをつづった。
大川小で亡くなった教職員の遺族や生き残った元児童たちの中には、今も後ろめたさを抱えている人が多いという。でも「『そこから離れて大丈夫ですよ』と伝えたかった」。それが「あなたの瞳に話せたら」に込めた一番の願いだ。
11月には、VIPO(映像産業振興機構)の企画に参加し、プロの制作陣と「震災とは関係ない人間ドラマ」を撮った。「すごく楽しかった。心が満たされ、生きていて一番幸せだったんです。今は続けたいという気持ちになっている」
小学生の頃は、「キノコの呪い」のようなオカルトやホラーだけでなく、恋愛や、音楽ものなど全ジャンルに興味があった。メロン色の洋服を着てくる女の子「メロンマン」が、「スイカマン」と宿命の対決をする。そんな脚本も書いたと話していた。これからはきっと、監督としてそんな愉快な物語や人間ドラマを生みだしてくれると期待したい。ただそれで、震災から完全に心が離れるわけではないはずだ。