津波で妹を失った女性が映画で訴える過去との離別…「風化はしない、あったことはあったことだから」
震災に寄りかからなくても面白い映画を撮るのが本当の才能だと思い、色々な脚本を書いた。でも結局「震災から受けたものが出てきてしまう」。そんな繰り返しの中で、「一度正面から向き合わないと抜け出せない」と覚悟した。
4年生に上がる前に休学し、アルバイトをして制作資金をためた。石巻に戻ると、出演者を探すため演劇祭に通い、意中の相手には名刺を渡し、連絡を取った。大川小でも撮影を行えるよう、遺族会に直談判した。実際の撮影に費やしたのは、2019年3月の約10日間。夏にも1日追加し、映画「春をかさねて」(45分)を撮りきった。
同じ境遇の幼なじみがボランティアに恋
14歳の祐未(斎藤小枝)がTVクルーにカメラを向けられているところから、物語は始まる。震災で妹を失った彼女は、記者の質問にきちんと答える。
祐未は妹の夢を見る。勉強し、妹に恥ずかしくないように生き、震災の経験を語り継いでいこうと誓った。ある日、同じく妹を亡くした幼なじみのれい(斎藤桂花)がメイクをしているのに気づく。東京から来たボランティアの大学生に恋し、おそろいのミサンガを贈るのだという。祐未はそんなれいに嫌悪感を抱く。
祐未の姿は、周囲の人たちの要素を組み合わせて形作ったが、もちろん自分自身も投影している。間借りした校舎、バラバラの制服、夜に集まって話し合う大人たち――すべて実体験に基づいている。記者に話せても、友達には話せないこともたしかにあった。というのも、家族を亡くした人もいれば、助かった人もいて「切実すぎる話だった。どこまで言ったら傷つけてしまうのかとか、分からなかった」からだ。地域の外から来た人に励ましの言葉をもらっても「本当の気持ちは分かってもらえない、分かってもらうのは図々しいと思っていました」。
取材され、新聞記事になり、放送される。でもそれは本当の気持ちなのか。取材者の示した“物語”に乗っかっているだけではないか。「違和感というか、(普段の)自分ではない、美しいきれいな自分」だと感じていた。