「夢をかなえるためになぜ私は全力を尽くさなかった」終末患者に聞いた「人生の後悔」5選「ふるさとに帰ればよかった…」
3 好きなものを食べておかなかったこと
病気になると、味覚が変わることがあります。死が迫ると、だいたい食欲は落ちます。好物を食べても、同じように味わえないから、食べようと思ってもその気にならないのです。自分の好物を食べてもまったく美味しくなくなってしまっていることさえあります。 終末期において、無理やり食べさせる必要はありません。無理に食べたとしても、それによって余命が延びることはほとんどないからです。 だから、食べられるものだけ、美味しいと思うものだけ食べればいいのです。本人が食べたくないものを食べろと押しつけるより、彼らが本当に欲しいものを望んだときにそれを味わってもらうことが大切なのです。 これまで美味しいと思えなかったものが美味しくなることもありますから、希望は捨てるべきではありません。がんの終末期に炭酸飲料やカップラーメン、甘いものを好むようになる人もいます。アイスクリームやプリン、ゼリーなどは飲み込みが悪くなってからもしばらく食べられることがあります。ガリガリ君を好まれる方が結構いることも知られるようになって来ました。 好きなものは元気なうちに、食生活が偏らない程度に食べておいた方が後悔は少ないでしょう。
4 趣味に時間を割かなかったこと
終末期に、仕事ばかりの人生だったことを後悔する人がいます。「仕事=人生」だった人は、病気になり、入院が頻繁になると仕事ができなくなり、生きがいが奪われてしまうからです。仕事しか引き出しがないと、仕事ができなくなったときにつらい思いをする可能性が高くなるかもしれません。 私の知っている患者さんで、普通だったら散歩ができないほど筋力が落ちているのに「散歩に出るのが楽しい」と出かけていた人がいました。病床で死の数日前まで粘土細工に打ち込んでいた人もいました。ホスピスのロビーで趣味の歌を披露し、再び歌を歌いたいと生命の炎を燃やし続けた人もいます。 終末期のために趣味を持つ必要はありませんが、何らかの一芸を追求し続けるのは人生の引き出しを増やし、己の糧になるのではないかと感じます。それが最後まで、人を支え続けるものになったりもするのです。私の見てきた一芸を長く続けた人たちは、最後までそれを楽しみながら、後悔のない、よい最期を迎えられたように感じています。 旅行を趣味とする人は、できるうちにしておきましょう。病気になってからの旅行は簡単ではありませんし、終末期になるとさらに大変です。体力的なことだけが問題ではありません。手続きが大変で、周囲の理解を得ることも必要になるからです。 たとえば、痛み止めの医療用麻薬を使用していても海外渡航はできますが、その持ち運びのための諸手続きや、海外で体調を崩したときのための英文の紹介状などが必要な場合があり、準備に時間がかかります。 80代で車いす、余命2、3カ月と推測される男性から家族とハワイに行きたいと言われたときには驚きました。しかし本人と家族の決意は固く、私は英語の文書作成に精を出しました。旅行から数カ月して男性は亡くなりましたが、「よい思い出ができた」と本人も家族も大変満足しておられたことが記憶に残っています。 病状が深刻になる前に旅行にはどんどん行くべきです。明らかに他者に迷惑をかける場合はやめたほうがいいと思いますが、そうでないなら行ったほうが後悔は少ないと思います。