「夢をかなえるためになぜ私は全力を尽くさなかった」終末患者に聞いた「人生の後悔」5選「ふるさとに帰ればよかった…」
5 夢を実現できなかったこと
若いころは無限に時間があるように感じられます。望めば何にでもなれるような気がするものです。しかし長じるにつれ、その万能感は少しずつ失われていきます。さまざまな夢があっても、かなえられたものは、ほんの一部でしょう。 これは私の感想ですが、死ぬ前に後悔するのは夢がかなえられなかったことそのものよりも、その夢をかなえるために自分が全力を尽くせなかったことにあるのかもしれません。 ただ、夢を持ち続けていさえすれば、それは最期の瞬間を迎えるまでかなう可能性があります。あきらめたら可能性はゼロになりますが、あきらめなければゼロにはなりません。 ピアノが上手な患者さんがいました。彼女は亡くなる前にピアノを演奏して、病棟の患者さんたちを涙させる演奏をしました。ピアニストになる夢がかつてはあったと聴きました。ピアニストにはなれませんでしたが、ピアノを弾くことで人を元気づけたり感動させたりできたら、という夢を持ち続けたからこその結果だったと思います。 夢や情熱がなければ、人間は単に生命を消費するだけの存在と化してしまいます。最期まで夢を持ち続けることができれば、たとえそれがかなわなかったとしても、後悔は少ないのではないでしょうか。 写真/shutterstock
---------- 大津秀一(おおつ しゅういち) 茨城県出身。岐阜大学医学部卒業。2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。2010年6月から東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンターに所属し、緩和ケアセンター長を経て、2018年より現職。遠隔相談を導入した早期からの緩和ケア専業外来クリニックを日本で先駆けて設立・運営し、全国の患者さんが相談可能なオンラインでの緩和ケア相談「どこでも緩和R」を香川県坂出市の「みのりクリニック」と協働して行っている。著書に25万部のベストセラー『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)、『幸せに死ぬために─人生を豊かにする「早期緩和ケア」』(講談社現代新書)などがある。 ----------
大津秀一