和田秀樹 うつ病から職場復帰した人の約半数が5年以内に「再休職」へ…メンタルの不調をほとんど治せていない現実が意味する「精神医療崩壊」の実態とは
◆心の病のレッテル貼りを煽るマスメディアの罪 精神疾患の不用意なレッテル貼りは、マスメディアの影響も甚大です。 テレビや雑誌などは、視聴者や読者が興味をもちそうなキャッチーなワードを見つけると、それが深刻な病気であってもお構いなしに、ファッションなどと同等の「流行りもの」として取り上げ、人々の感情を煽るところがあります。 かつて世間を席捲(せっけん)した「アダルト・チルドレン」という言葉も、その代表の1つです。 アダルト・チルドレンというのは、本来はアルコール依存症の人がいる家庭で育ち、幼少期に身体的・精神的な虐待を受けたことで、成人後もその影響が強く残っている重度の精神疾患を指します。 ところが、アダルト・チルドレンという言葉が独り歩きして、ちょっと親に厳しいことをいわれた人までアダルト・チルドレンを自称するような一種のブームとなり、当時、精神科には「自称・アダルト・チルドレン」がどっと押し寄せました。 私のところにも時々来ましたが、話をよく聞いてみると、子どもの頃に親によく叱られたとか、親のしつけが厳しかったという程度のケースがほとんどでした。 それまでは普通に生活していた人が、アダルト・チルドレンという病名を知って、「まさに自分はこれだ」と思い込み、急に親を恨み出したり、親を罵倒するようになったりする。 そんな人が続出したのです。数年前の「毒親」ブームも同様です。 日本人の被暗示性(他者や環境の影響を受けやすい傾向)の強さを示す一例ですが、テレビやネットなどで話題になると、ちょっとしたことで「自分は心の病だ」と思う人が増え、これも精神科の混雑を招く要因となっています。 つまり、メンタルを病む人が急に増えたわけではなく、メンタルクリニックを受診する人が増えたということです。
◆メンタルクリニックの敷居が低くなった かつての日本では、メンタルを病むということに対して、非常にネガティブなイメージ(偏見)が強くありました。 そのため、以前は自分のメンタルに不調を感じても、生活や仕事に支障が出るほど深刻にならない限り、精神科を受診する人はほとんどいませんでした。 本人はもとより、異変に気づいた家族も、「まさか、そんなはずはない」「こんなこと、誰にもいえない」と否定したり隠したりして、医療機関を受診する人はごくわずかでした。 それがここ20年ほどの間に精神科の敷居が低くなってきたことは、多くの人が実感していると思います。 マスメディアの扇動により、良くも悪くも「心の病」に対する世間の認知が広まり、身近なものになったのだろうと思われます。 とくに若い人たちの間では、メンタルに不調があることを自らアピールする傾向も見られます。 SNS上には、「職場の上司に注意されたことが、ずっとトラウマになっている」とか「仕事のことが気になって夜眠れないのは不安障害に違いない」「朝なかなか起きられない私は<プチうつ>だ」「メンヘラ※で休職中」といったつぶやきがあふれています。 ※メンタルヘルスに何らかの問題を抱えている人
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