歴代M5シリーズの乗り比べを通じて再確認。「新型BMW M5セダンの本質とは何か?」
G90新型M5の国際試乗会をBMWの地元ミュンヘン市内で開催すると初めて聞いたとき、不遜にも「新型のMモデルだというのに、随分と手を抜いた試乗会だなぁ」などと思ったものだ。BMWといえば昔からポルトガルやスペインといった風光明媚なリゾートで試乗会を催し、参加する我々ジャーナリストを楽しませてくれたものだったから。 【画像】新型BMW M5セダン試乗会の「オマケ企画」は歴代M5シリーズのテストドライブ!(写真28点) けれども試乗会を終えた今、これからは本拠地での開催が、ポルトガルくんだりまで行かずとも、むしろかえってベストなんじゃないか、と思うようになった。フェラーリがマラネッロで開催するように…(と言いつつ、最近フェラーリはマラネッロ以外で開くことが多くなったけれど!) なぜか。本拠地で開催するからこそできるオマケ企画がとても勉強になるからだ。 例えばエンジニアを始め、開発に携わった多くの人たちから直接話の聞けることも大きい。もちろんポルトガルにも開発陣はやってくるけれど、如何せん人数に限りがある。本拠地ならば時間のある人は皆、気軽に出向いてくれている感じがした。 加えて。今回でいうと“BMW M5の本質とは何か”を再確認できる機会を用意してくれていたことがとても嬉しかった。初代E28 M5セダン、二代目E34 M5セダン&ツーリング、三代目E39 M5セダン、そして四代目E60 M5セダンという歴代モデルのテストドライブ付き、だったのだ。 私の大好物はなんといってもE34 M5ツーリングだ。日本には導入されなかった幻のM5ワゴン。90年代にBMW Mに勤務するマネージャークラスはこぞってM5ツーリングに乗っていたという。ドイツはステーションワゴン大国でもある(相対的には今でも)。BMWクラシックが用意してくれたM5ツーリングは後期型の3.8で、スタンダードの5速マニュアルだった(日本仕様の後期モデルはオプションの6MT)。 90年代にE34 M5をテストしている。いまだに印象に残っていることが、スティックシフターの揺れ、つまりパワートレーンのワイルドな振動だった。ところが、改めて乗ったM5ツーリングはとてもジェントル。なんならエンジンの回転フィールも洗練されていて、驚くほどオトナな味わいだ。同時に、ハンドリングはワゴンを感じさせず良好で、今でも十分、使えそう。 E28はなんといっても88系のストレート6が秀逸。エンジンが秀逸という意味ではやはりV10のE60も良かった。実は本国にはE60のツーリングも存在する。試乗会にはそれも飾ってあって感動した。さらにアメリカ市場向けとしてクラブオブアメリカ発注の6MTもあった。いつか乗ってみたいものだ。 意外に感動したのがE39。V8エンジンとマニュアルミッションの相性がすこぶるつき。これならまだ安いかも、と思ってカーセンサーを検索したら800万円と出て焦った。E60のV10の方が300万円前後と圧倒的に安い! 歴代モデルに乗ってみて、M5は “洗練された高性能セダン”だと改めて知った。BMWの中核をなす5シリーズにふさわしいライドコンフォートを備えつつ、時代における高性能にもフォーカスしたモデルであることを改めて確認できたのだ。 そして、新型M5の印象はというと、“そんなスーパーサルーン”の極めて真っ当な後継モデルであった。 ミュンヘン空港近くにあるBMWのテストカー施設を出発すると、助手席と後席に座った仲間からいきなり驚く声が上がってかえってこっちがびっくりした。乗り心地がとても良いらしい。確かに運転席でも悪くはない。とはいえ驚くほど良いとも思わなかった。運転席の感覚では、ソリッド感がしっかり残されていてガッチリとフラットに走るように思える。そんなふうに感じる車の場合、運転席以外はたいてい“心地悪い”。それが逆に良いという。ちなみに後で後席に座ったが、2時間ほどの間、居眠りできてしまった。 街中からアウトバーン、そしてカントリーロードまで、そのドライブフィールは一貫して上質だ。それがM5の伝統である。 全てが高次元でバランスされているのだ。1000Nmもの最大トルクを謳うセダンである。それなりに手に負えない感じがあってもおかしくないが、走り出した途端、長年付き合った相棒のようにしっかりとコントロールできている感覚がある。踏んでも曲げても扱いやすさは変わらない。そのぶんスリリングさには欠けていると思うが、伝統的にみてそもそもスリルを期待するモデルではなかった。 野太いMサウンドエフェクトが“耳につく”のでカットした。ナチュラルなV8ノートの方が個人的には耳に心地よいと思った。ハンドリングの正確さはピカイチ。ハンドリングマシーンである。両手で前輪をコーナーへ置けるような感覚こそがBMWらしいハンドリングだが、M5はさらにその上をいく。ドライバーのハンドルへのわずかな入力を素早く察知して、曲がる準備をしてくれているかのようだ。まるで前輪がすでに進むべき道を知っている。それでいてアジャイルすぎることはない。あくまでもドライバーの気持ちに忠実だ。 感動したのは、コーナーでの車体(と自分)の姿勢だった。車体のロールと乗り手の握るハンドルの位置関係が、本当に胸をすく。旋回姿勢が極めつきにいい。これだけはアシを固めたスポーツカーでは味わえない。アシの良いハコでしかこの姿勢を作り出すことはできない。重心高の高いハコだからこそ綺麗な姿勢を作ることが大切。BMWは重い車体でも昔のM5のような走りを実現できた。そこがすごい。 最大トルク1000Nmの加速フィールの凄まじさは言うまでもない。それでいて速度感覚は低い。これじゃ免許が何枚あっても足りないと思った。アウトバーンでは何気なく踏んで軽く280km/hを超えてしまったのだから。同業者はメーター読みでなんと310km/hまで出たと喜んでいた。 文:西川 淳 写真:BMW Words: Jun NISHIKAWA Photography: BMW
西川 淳