さらば旧・関西将棋会館、藤井聡太竜王が頂点へ駆け上がるまでのセピア色の記憶…大山康晴十五世名人らの掛け軸はそのまま新会館へ[指す将が行く]
3組決勝で師弟対決、和装で臨んだ師匠は完敗でも「役割果たした」
2020年の竜王戦3組では感動的な師弟対決が実現した。17歳の藤井七段は順当に決勝へと駒を進め、51歳だった師匠の杉本八段は反対の山を懸命に勝ち上がり、決勝進出を果たした。関西将棋会館・御上段の間に杉本八段は和服で入室した。「弟子に対する敬意です。私が藤井を相手に上座で対局するのは、今日が最後です」と和装に強い思いを込めていた。対局は弟子の快勝だった。「ボロ負けは情けなかったですが、役割を果たしました」と局後に胸を張った師匠の目は潤んでいた。
コロナ禍となった同年7月に初タイトルとなる棋聖を最年少で獲得し、勢いに乗って竜王挑戦へと駆け上がるかと思われた藤井棋聖(当時)だったが、竜王戦は本戦の初戦で丸山忠久九段に敗れた。がっくりとうなだれて感想戦に臨んだ姿は記者の脳裏に刻まれている。
旧会館での竜王戦対局、2021年の八代弥七段戦が最後に
そして2021年、二冠となっていた藤井王位・棋聖(当時)は竜王戦2組を制した。2月に関西将棋会館で行われた2組2回戦は広瀬章人八段(当時)戦で、直感にいざなわれた記者は、カメラを「セピア」モードにして撮影した。ほとんど使わない手法だが、いずれ東西の将棋会館では対局しない棋士になると思い、夢中でシャッターを押した記憶がある。
夏場に行われた本戦では、山崎隆之八段、八代弥七段を撃破し、挑戦者決定三番勝負へと駒を進めた。本戦の2局は関西将棋会館での対局だった。10代ながら、御上段の間で大棋士の掛け軸を背負って対局する藤井王位・棋聖からは風格がにじみ出ていた。竜王戦を旧会館で戦ったのは、2021年8月の八代七段戦が最後となった。
タイトル戦続き、東西会館での対局機会がほとんどなくなった藤井竜王
挑決では、永瀬拓矢王座(当時)に連勝し、豊島竜王(当時)への挑戦を決めた。その後、叡王も加えていた藤井三冠(当時)は竜王戦七番勝負で4連勝し、初の竜王位を獲得した。四冠となり、八大タイトルの半数を保持した「藤井時代」は確たるものとなってゆく。
2022年以降、防衛を重ねながら着々とタイトルを増やした藤井竜王。番勝負は全国各地で行われるため、東西の将棋会館では、ほとんど対局をしなくなった。そして2023年10月に王座を奪取し、前人未到の「八冠」制覇を成し遂げた。