さらば旧・関西将棋会館、藤井聡太竜王が頂点へ駆け上がるまでのセピア色の記憶…大山康晴十五世名人らの掛け軸はそのまま新会館へ[指す将が行く]
2014年、小学6年の時に奨励会初段となった。すさまじい速さで奨励会の有段者となり、渡辺明九段以来の「中学生棋士」誕生の期待がかかった。表情にはあどけなさがうかがえるが、盤上では気後れすることはない。藤井竜王は昔から長考派ゆえ、関西将棋会館での例会では、駒がぶつかる前に持ち時間を使い果たし、秒読みで延々と戦い続けることも多々あったという。それでも白星をつかみ取る姿は周囲から恐れられた。三段リーグは1期抜けを果たし、2016年に14歳2か月で史上最年少棋士となった。中学2年の時だった。
デビューから破竹の29連勝、14歳にして「御上段」の上座で対局
藤井四段(当時)はデビュー以降、負けなしで29連勝という歴代1位の記録を打ち立て、「将棋フィーバー」を巻き起こした。毎局、大勢の報道陣が対局室に詰めかけていた。
2017年の5月、連勝記録の過程で当時の藤井四段が、関西将棋会館の最上位の対局室・御上段の「上座」で対局した珍しい場面があった。新人王戦で、相手がアマチュアの横山大樹さんだった。横山さんの勤務に合わせて休日に対局が行われたため、同じ日に対局する上位棋士がおらず、藤井四段が最上位の対局室を使い、しかも上座に入ったのだ。先輩棋士らは「14歳にして御上段、そして上座がしっくりきている」と感嘆していた。
5組1回戦では四段だったのに決勝進出時には七段…「光速」の昇段
2018年はとんとん拍子に昇段した年だった。1月の竜王戦5組1回戦・中田功七段(当時)戦では四段だったが、2月に順位戦昇級を決め五段に、同月に朝日杯優勝を果たして六段となっていた。3月の竜王戦5組2回戦・阿部隆八段(当時)戦は関西将棋会館で行われ、水無瀬(みなせ)の間の下座で対局していた。2回戦では六段だったが、5月に5組決勝進出を果たした時点で規定により七段へ昇段した。「四→五→六→七」への出世は「光速」だった。
2019年本戦の大一番、時の名人に完敗「全ての判断で相手が上」
2019年は竜王戦で大一番があった。ランキング戦4組で優勝し、本戦でも2勝してトップランナーの豊島将之名人(当時)と対戦した。藤井七段(当時)が公式戦で2戦してまだ勝ったことのない相手だったが、すでにタイトル挑戦をすることが自然と思われる力を備えていて、注目を集めた。この対局に勝ったのは豊島名人だった。「大きな勝利だった」と後に振り返った豊島名人は竜王を奪取し、竜王・名人へと上り詰めた。悔しさをかみしめた藤井七段は「全ての判断で相手が上回っていた」と完敗を認め、さらなる棋力向上に努めた。