山本奈衣瑠とこささりょうまが語る映画『ココでのはなし』。作品が映し出す「共感」と「距離感」の関係
東京オリンピック開催直後のゲストハウスを舞台に、そこで働くスタッフたちの人生にフォーカスをあてながらも、悩みを抱えたゲストたちにそっと寄り添い、明日を生きる小さな希望を与える。そんな物語を映し出す映画『ココでのはなし』が11月8日に全国公開された。 【画像】山本奈衣瑠とこささりょうま MVやテレビドラマの監督としてこれまで着実に力を培ってきたフィルムメーカー・こささりょうまによる初の長編映画となる本作。主演は『猫は逃げた』(2021年)で俳優デビューを果たし、『SUPER HAPPY FOREVER』『夜のまにまに』(ともに2024年)など注目作品への主演が続く山本奈衣瑠が務める。そのほかにも、吉行和子や結城貴史、三河悠冴などの世代を超えた個性豊かな俳優陣が集結した。 あらゆる悩みやルーツを抱える若者たちが「ゲストハウス ココ」を訪れ、他者とふれあい、食をともにし、去っていく。近すぎず遠すぎずな距離感を生み出しながらも、確実に縁が結ばれていく特別な時間と場所。その物語を紡いだ監督・こささりょうまと主演の山本奈衣瑠が、本作を通して伝えたいこととは? 2人を直接訪ね、劇中で描かれる「人の多面性」や「コミュニケーションの多様性」について訊いた。
「何も言わずに、ただ隣に寄り添う映画」。監督と主演俳優が語る『ココでのはなし』の存在理由
ーこさささんは今回が初の長編映画ですね。試写会の挨拶で「コロナ禍で映画をつくる意思を固くした」とおっしゃっていたそうですが、その真意をあらためて聞かせてください。 こささ:コロナ当時の自粛期間中、「何かを発信しないといけない」みたいな風潮がありましたよね。でも、僕自身はSNSで何かを発信するのがあまり得意なほうではなかったので、心がどんどん病んでいってしまったんです。あの時期って活発な人は精力的に動けるし、そうじゃない人は内に入ってしまうような時期だったと思っていて。そんなときに「何もしていない時間っていうのは、何もできていないわけじゃない」という言葉をかけられたことがあって、それにすごく救われたんです。 こささ:SNSで発信している人たちは目立って見えるし、僕自身もそういう人たちに憧れていたんですけど、じつは世の中には「何もできていない」と感じていた人って多かったんじゃないかなと思って。そんな人たちと肩を組むような映画をつくりたいと感じたのが、『ココでのはなし』を撮るきっかけになったんです。 ー誰かの悩みや苦しみを目の当たりにしたときに、その課題を解決しようと奮闘する姿ではなく、ただ一緒にいることも、その人を救う方法の一つだなということが本作を見て感じられました。こさささんの「肩を組むような映画」という言葉がとてもしっくりきます。今回主演を山本さんが務めていますが、こさささんから見た山本さんの魅力を教えてください。 こささ:いっぱいあるんですけど、僕がいろんな役者さんと接するなかで一番重要視しているのが「声」なんです。僕の映画は引きの画が多いんですけど、そうすると誰が喋ってるのかわからなくなっちゃうじゃないですか。でも、声に特徴のある人を起用すると、誰が喋っているかが五感で理解できるようになるんですよね。そういう意味でも、彼女の声や特徴的な喋り方は魅力的だなと思っています。 あと、オーディションのときに「自分でチャーミングだなと思う癖ってありますか?」っていう質問を僕はよく聞くんですけど、山本さんは「曲線に自分を沿わせたい」って答えたんです。それを鮮明に覚えていて。もっと聞きたいと思ったし、どんな人なんだろうって知りたくなるのって、主人公が主人公たる所以なんじゃないかなと感じて、主演をお願いすることにしました。 ー曲線に自分を沿わせたいというのはどんな感覚なんですか? 山本:すごく抽象度が高いことを言っているなとは自覚しているんですけど、自分が素敵だなと思うものを描きたいとか、触りたいって思う感覚と同じだと思っていて。たとえば猫とか犬を見て、ふわふわしてて可愛いとか、気持ちよさそうだなって思うのと同じで、魅力的な曲線を見つけると「私もそれになってみたい!」って感じるんです。 山本:これはみんなにわかってほしいわけではなくて、私にはそういう感覚が日常的にあるっていうだけなんです。 ー素敵な感覚だと思いますよ! 山本さんは本作の台本を読んだとき、まずどのような印象を受けましたか? 山本:でき上がった映像を見ても思ったんですけど、わかりやすくなくても、言葉や空気感に「優しさ」っていうキーワードがあるなと最初に思い浮かびました。何も言わないけど、ただ隣にいて、その存在を感じるような脚本だなと。 それと、劇中の詩子は、地元にいるときのパートと東京に来てからのパートで表情や性格が全然違うと思うんですけど、ゲストハウスで誰かと接しているなかにも、地元にいたころの詩子の一部があると思ったんです。縁側でみんなと話すシーンで「みんないろいろありますよね」ってさらっと言うけど、本当にみんないろいろあるんですよね。 山本:詩子自身も見たくないことを見ないようにしてるところがあるからこそ、その本心が形成された「地元にいたころの詩子」にちゃんと寄り添わなきゃなと思いました。