山本奈衣瑠とこささりょうまが語る映画『ココでのはなし』。作品が映し出す「共感」と「距離感」の関係
見終わったあと、「お腹すいた」と言ってもらいたい。食事シーンに込められた「つぎに進みたくなる」仕掛け
ー今回の映画では食事シーンも印象的に描かれていますが、食事というのはこの映画やお2人の人生にとって、どのような役割を担っていると思いますか? 山本:この映画では「何もしていない時間っていうのは、何もできていないわけじゃない」っていうことを大きなテーマにしているけど、近年よくいろんなかたちで「ご自愛しましょう」っていうことが言われているじゃないですか。私もその大切さを感じているけど、全然できないし、焦ったりする。だけど、食事をとることって無意識に前に進む行為っていう感じがあるんです。 ご飯を食べることで、つぎに自分がする何かのためのエネルギーを自分の身体にためることができる。前を向くパワーみたいな。すごく難しいんですけど、これは普段からそう感じるし、この映画を見ていてもすごく思いました。動いているか止まっているかはわからないけど、食べることだけで明日を生きられるから。 こささ:そこまで解釈してくれてありがとう。この映画を見てくれた人に感想でもらえたら一番うれしいのって「お腹すいた」なんですよ。見終わったあとに、ご飯を食べてもらえたらそれがすごくうれしいし、それが僕にとって結構重要でしたね。 こささ:あと、ご飯って自分でつくることもあるけど、誰かが出してくれたご飯を食べることって、その人との縁を感じることでもあると思うんです。だからチームのなかでは、この作品においては「おにぎり」のことを「おむすび」って呼んでいました。おむすびという名前の由来は諸説あるんですが、その一つに「縁を結ぶためにつくられたから」というのがあることを演出を考えているときに知ったんです。コロナの時期って手づくりのものを食べることが結構忌避されていたじゃないですか。だけどあえてこの映画では、ココで出会った人たちの縁をつないだものとしておむすびが出てくるから、詩子たちがおむすびを握ることは重要だと感じたんです。 実際に撮影の舞台になった「東京ゲストハウスtoco.」でも、以前は朝食におむすびを提供していたんですよ。そういう背景もあり、おにぎりではなくおむすびと呼ぶルールを設けて、おにぎりって言ったら罰ゲームっていうのをやってたよね(笑)。 山本:「おにぎりって言ったら100円ね」ってね。 こささ:それぐらいおむすびっていう言葉を大事にしたかったんです。縁を結んで、その縁を食することで、一緒に縁を結んだことになる。それが『ココでのはなし』の当事者同士の距離感を示すものなのかなって思ったんです。あと単純に、味噌汁を飲むと、どんなに焦っていてもほっとするじゃないですか。自分にとって、どんなに焦っていてもほっとできる場所、そんな映画にしたいなっていう思いがあって、映画のタイトルも『味噌スープ』にしようかとも思っていました。なので、見てくれた人には「お腹すいたな」って思ってもらえたらうれしいし、そんな映画なのかなって思います。 インタビュー・テキスト by 中里虎鉄 / 撮影 by 是永日和 / ヘアメイク by ボヨン / スタイリスト by 横澤琴葉 / 編集 by 生駒奨