「ノーベル賞」のその後(2)X線、ニュートリノ、重力波……見えない宇宙を見つめる“目”を開く
今年もノーベル賞の季節が近づいてきました。10月7日の「生理学・医学賞」を皮切りに、8日に「物理学賞」、9日に「化学賞」と発表が続きます。 「ノーベル賞」のその後(1)当たり前になった感染症治療とマラリアとの終わらない闘い ノーベル賞の発表時はニュースなどで話題になるものの、「何かすごい賞」というイメージで、結局どんな意味がある研究だったのか分かりにくく感じている人が少なくないかもしれません。ですが、ノーベル賞は「人類に貢献した研究」に与えられるもので、私たちの生活に結びついている研究がたくさんあります。 今回は3回にわたり、過去にノーベル賞を受賞した研究がその後、どんなふうに私たちの世界を変えたのか、振り返ってみたいと思います。第2回は物理学賞です。 実はいま天文学の分野で、これまで専門分野で別だった天文観測を協調して行うことで、より深く統合的に宇宙の謎を探ろうという動きが活発化しています。振り返ってみれば、2002年にノーベル物理学賞を受賞した「X線」「ニュートリノ」研究は、その予兆でした。この2つの研究によって、私たちは目に見えない宇宙世界を見る手段を得ました。そして「重力波」の初検出を受け、2017年に本格的に始動した新しい天文学の到来を告げるものだったのです。
宇宙から届くさまざまな「目で見ることができない光」
2年前の2017年8月17日、2つの中性子星(※1)が合体するという現象が観測されました。これはおそらく科学史に残るエピソードになるでしょう。人類が今できる、すべての方法で一斉に行った天文観測による成果だったからです。おなじみの「可視光」はもちろん、2015年に初検出された「重力波」をはじめ、「X線」「ニュートリノ」など、ノーベル賞につながった研究も含めたあらゆる科学的知見を総動員した検出方法で1つの天体現象を観測したのです。今回は、そこに至るまでのそれぞれの研究の歴史を振り返りながら、人類がどうやって「目に見えない世界」を見て、知ろうとしてきたのかを探っていきます。 (※1)中性子星…銀河にある巨大な星が一生の最後に起こす超新星爆発後にできる中性子物質でできた小さくて非常に重い天体、さらに重いものがブラックホール 目に映る光が実は、光の中でもほんの一部であることを私たちは今、ごく当たり前のこととして知っています。夏の日差しの強い日に「紫外線」対策をしたり、電子レンジで「マイクロ波」を使って食べ物を温めたり。これらは全て「光」ですが、その波長(空間を伝わる波の周期的な長さ)が異なり、私たちの目に見える光や、そうでない光があります。 レントゲン撮影で使われる「X線」もそんな光の1つです。第1回ノーベル物理学賞(1901年)を受賞するヴィルヘルム・レントゲンのX線の発見は、現在でも医療の現場で広く使われ、さまざまな科学の分野で目に見えない世界を見ることを可能にした画期的なものでした。 その中で、X線を使って宇宙の見えない世界を見て、私たちの世界を広げられることを示したのが、2002年にノーベル物理学賞を受賞したリカルド・ジャコーニ氏です。ジャコーニ氏は観測装置を載せたロケットを使い、太陽系の外の遠い宇宙から届くX線を初めて観測しました。