「ノーベル賞」のその後(2)X線、ニュートリノ、重力波……見えない宇宙を見つめる“目”を開く
目に見えない「ニュートリノ」観測が開いた可能性
ジャコーニ氏と同時に2002年物理学賞を受賞したのがレイモンド・デイヴィス・ジュニア氏と小柴昌俊氏です。彼らが見たのは、光ではなく「ニュートリノ」という目には見えないどころか、他の物質とはほとんど相互作用することすらない物質です。 ニュートリノは、理論的に予言されていた存在を証明するという形で発見されました。発見者のフレデリック・ライネスもまた、1995年にノーベル物理学賞を受賞しています。2002年の受賞者2氏は、それぞれ太陽や超新星爆発から届くニュートリノを観測しました。光とは異なる目には見えない物質を捉え、これまでと違った角度から宇宙で起きている現象を見ることができるようになったという大きな発見といえるでしょう。 X線とニュートリノ、ともに目には見えない世界から宇宙を見る研究に2002年の物理学賞は与えられました。これから先、赤外線や紫外線、電波、X線、そしてニュートリノ、といったさまざまな目に見えない光や科学現象が重なり合うことで、宇宙の姿がより一層、明らかになっていくことへの期待だったのではないでしょうか。
「重力波」検出、見えない世界の重なりが映す宇宙
2015年、私たち人類はまた1つ、目に見えない世界である重力波を見ることができました。この発見からわずか2年後、重力波を観測したアメリカの天文台「LIGO」(ライゴ)に関わった3氏が2017年のノーベル物理学賞を受賞したことを記憶している人もいるでしょう。 重力波という知見が加わったことで、目に見えない世界が重なり合うことへの科学的な期待が高まっています。すでに新しい発見につながっており、冒頭で紹介した2017年8月の「連星の中性子合体」という現象では、重力波をはじめ、いくつもの方法を使って世界中で観測が行われました。 中性子星合体では、中性子星という2つの重い星が、非常に速い速度で回転しながら近づくことにより重力波が生じます。この重力波をキャッチすることで、中性子星連星の合体が起きる方向を捉えます。そして世界中の観測装置が観測を始めました。連星の合体による爆発で生じた「γ(ガンマ)線バースト(※2)」と呼ばれる短時間で非常に強いエネルギーを放出する現象、その後に発生したX線や電波、赤外線、そして目に見える可視光がどのくらいの時間で、どのように明るさを変化させるのか、詳しく観測することができました。 この観測を報告する論文には、実に1000人単位の研究者らが名を連ね、いかに多様な観測方法を活用した成果なのかがうかがえます。 その1つが、中性子星合体の際に、金やプラチナ、ウランのような重元素が生まれる様子を観測できたことです。この結果は、米ハワイにある日本の研究施設「すばる望遠鏡」などによる日本のグループの観測結果と、これまで理論的に考えられていた重元素生成プロセスにおける光の明るさの変化が一致したことによるものでした。 (※2)ガンマ線バースト…宇宙の一点から非常に強いガンマ線が短時間に降り注ぐ現象。超新星爆発や中性子星が合体する際に起きると考えられている。ほとんどのガンマ線バーストで、エネルギー放出はわずか数十秒間。宇宙で最大規模の爆発現象ともいわれる。