中国全土に新たな収容施設、汚職への粛清拡大で建設相次ぐ
「留置」下での生活
中国の当局者や国営メディアは、「双規」から「留置」への移行を重要な一歩として称賛。自分たちの形容する「反汚職活動における法の支配」が実現に向かうと評価した。 「双規」のシステムには長年批判の声が上がっていた。脅迫や強い圧力、拷問まで使って確実に自白させることを念頭に置いていたからだ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの16年の報告書は、「双規」による拘束で10年から15年にかけて11人が死亡したと記録。虐待や拷問の事例も数多く発生したとしている。 法的根拠を持たなかった「双規」とは異なり、「留置」は国家監察法に明記されている。18年に導入された同法は、NSCを規制する内容を盛り込む。 国家監察法の下、捜査官は脅迫や欺瞞(ぎまん)など違法な手段で証拠を集めることを禁じられる。侮辱や叱責(しっせき)、殴打、虐待の他、あらゆる形態の体罰を取り調べで用いることも禁じる。また尋問を動画で記録することも義務づけている。 しかし法律の専門家に言わせれば、同法は「留置」を表面上合法に見せているだけであり、実際の拘束の制度は司法体系の枠外で運用されている。そこには外部による監督もなく、虐待が発生しやすい傾向も本質的には変わっていない。 「過去には超法規的という位置づけだったが、今では一部から『合法的違法行為』だとの批判を受けている」。NSCについて研究するある中国の法学者は、そう指摘する。同学者は政府による報復への懸念から、匿名を条件に取材に応じた。 共産党の指揮下にある中国の不透明な裁判制度は、既に99%を超える有罪判決率を誇っている。 しかし刑事事件の逮捕と異なり、「留置」は司法手続きの枠外で行われており、法的代理人へのアクセスが認められていない。このため権力の乱用に対する懸念が浮上する状況となっている。2人目の中国人学者が同じく匿名を条件に明らかにした。 昨年9月には、一流のエコノミストで共産党中央党校の教授も務めた周天勇氏が地方当局について、汚職調査を口実に民間の起業家から金銭をゆすり取っていると警告。自分たちの逼迫(ひっぱく)した財政の穴埋めに利用していると主張した。中央党校は共産党が党の高官を訓練するエリート校。 この記事は広く拡散したが、後に検閲された。この中で周氏は、地方の反汚職部局がビジネスマンを拘束する慣行を廃止するよう求めている。ビジネスマンらはでっち上げを含む贈収賄罪に問われ、釈放の見返りに金銭の支払いを強要されるという。「もし(この傾向が)拡大すれば、疑いなく国内経済にとっての新たな大惨事をもたらすだろう」(周氏) 近年は虐待と自白強要の告発が数多くの「留置」のケースで浮上。オンライン上で実態が公開される状況となっている。 建築家から地方当局者に転じたチェン・ジャンジュン氏も、そうした告発者の一人だ。同氏は「留置」中、欺かれる形で、賄賂を受け取ったとの虚偽の自白を強いられたと訴えた。22年、北西部の都市、咸陽市でのことだという。 6カ月間の拘束中、57歳のチェン氏は交代で配置される二人組の看守から24時間監視された。1日18時間、背筋を伸ばして座らされ、動くことも話すことも許されなかった。少しでも背中を曲げると、即座に看守から叱責されたという。SNSの微信(ウィーチャット)に投稿した経験談の中で明らかにした。 この件に詳しい人物2人がCNNに確認したところによると、経験談はチェン氏本人が記述し、同氏の娘が公開した。投稿にはチェン氏がトイレットペーパーに描いた3枚のスケッチの画像も添えられた。そこには同氏が「留置」下でどのような生活を送っていたかが描写されている。 チェン氏に許された睡眠時間は1日6時間足らず。明るい電灯は一度も消えることがなかった。ベッドに横になる際は必ず背中を下にし、両手は毛布の上に出して看守に見えるようにしなくてはならなかったという。 「長時間にわたって苦痛を与えられ、肉体的にも精神的にも疲弊した。意識は混濁し、神経衰弱に陥った。思考がまとまらず、幻覚にも悩まされた」とチェン氏。「留置」から釈放されたときには、体重が15キロ落ちていたとも付け加えた。 CNNはチェン氏の娘にインタビューを申し込んだが返答はなかった。同氏の弁護士はコメントを控えた。 23年、チェン氏は250万人民元の賄賂を受け取ったとして禁錮6年の刑を言い渡された。調査報道で知られる経済メディアの財新によれば、チェン氏は判決に対して控訴しており、現在は裁定待ちの状態。 CNNは咸陽市政府と同市の監察委員会にコメントを求めている。 「留置」の拘束から釈放された当局者らの法定代理人を務めた中国人弁護士は、収容者らに共通の経験として、同じ姿勢で1日最長18時間座るよう強要されたことを挙げた。 「彼らは身動きせず座り続けなくてはならなかったため、臀部(でんぶ)に重い床ずれが生じた。薬は処方されたが座らせる措置は続き、症状は悪化した。極度の苦痛だった」と、同弁護士は述べた。 一部のクライアントは、自白するまでほとんど食べ物を与えられなかった。結果として栄養失調など多くの健康問題に見舞われたと、この弁護士は指摘する。また「多くの人が幻聴を発症するに至り、正気を失うような感覚にも襲われた」という。 この弁護士によれば、捜査官らが共通して使ったもう一つの戦略は、当局者とその配偶者を同時に拘束することだった。この場合、配偶者は公職に就いていなくても拘束されたという。 それは一石二鳥の効果をもたらした。捜査官らは当局者が犯したとされる違反行為について、配偶者から手掛かりの収集を試みることが可能になった。一方で配偶者が拘束されている状況は、当局者に対して自白への圧力をがかかることを意味したと、弁護士は説明する。 場合によっては、捜査官が当局者の子どもを拘束して尋問すると脅迫したこともあったと、弁護士は言い添えた。 現在中国の最高意志決定機関が検討する国家監察法の修正案では、虐待の可能性に対する懸念が考慮されているようだ。そこに加えられた条項は捜査官に対し、取り調べを実施する上で「合法的かつ節度を保った、標準化された手法」を取るよう求めている。 しかし修正案では、「留置」の拘束中に弁護士へのアクセスを認めるよう要求する声を無視。それどころか容疑者が禁錮10年以上の刑を言い渡される公算が大きい場合には、最長の拘束期間を6カ月から8カ月に延長することを提案している。新たな違反行為が発覚した場合には、「留置」の期間全体をリセットする可能性も示唆されている。実現すれば拘束期間は最長で16カ月に及ぶ。 修正案を巡っては、中国の弁護士や法学者から白熱した議論や批判が噴出した。彼らは「留置」の期間中捜査官に与えられた権限が収容者の権利保護を過度に上回っていると訴える。 北京を拠点とする法律事務所の大成は、ソーシャルメディア上の記事で「長期にわたる拘束と尋問がもたらす常軌を逸した苦難は、拘束者の心身の限界を超えている」と指摘。 「このような過酷な状況では、肉体と精神の両方が限界にまで追い込まれる。そのため収容者の供述に対する判断は一段と困難になる。『正直な告白』を事実に基づいて行っているのか、それとも圧力に耐えかね、事実に妥協することで『全面協力』を選んでいるのか、判然としないからだ」と主張した。