「10・19」は思い出としては何にもない 9分間の抗議は道義的な部分が原因・有藤通世さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(36)
▽アウトと完全に分かっていても、選手の訴えに監督は応える 「10・19」では第2試合で佐藤健一(第1試合は4安打)が1打席目にデッドボールを当てられた。佐藤がもだえてるんですよ。そこへ近鉄の仰木彬監督がベンチから出てきて「おまえ休めよ」というような言葉をかけたことが頭にきた。僕らは大概、縦社会ですから先輩に対して、この野郎と思うことがないんですよ。でも、そんな言い方ないやろと。人間としての道義的なものじゃないでしょうか。謝りに来たんだったら、悪かったの一言でいいんですよ。二の句、三の句はいらない。謝る言葉があっても、ああいう言葉をかけるべきじゃない。言葉というのは人を傷つけるなと思いました。仰木さんにしても必死だった。何げない言葉でしょうけど。それで何かあったら、やってやろうと思った。でも、こういう性格やから忘れていた。あのセカンドベースでの時まで。 【4―4で迎えた九回、ロッテが無死一、二塁の好機を得る。近鉄の投手、阿波野秀幸の二塁へのけん制球は高く浮くが、ジャンプして捕球した二塁手の大石大二郎が走者の古川慎一にかぶさるように着地。その際、古川の足がベースから離れており、タッチアウトと判定される】
古川のプレーはアウトはアウトなんです。僕らも見てて完全に分かる。(三塁へ)行きかけてアウトやから。でも、選手が訴えてたら僕は抗議に行かなければいけない。プッシュ(走者を押し出した)やろと言って、プッシュじゃありませんという話を(審判員と)やりとりしていた。そうしたら、また仰木さんが出てきた。(第2試合は4時間の規定時間があり)時間を気にしてたと思う。僕は気にする立場じゃないからね。それで佐藤の一件を思い出した。よし、やってやろうと思った。それで、ちょっと長引かせて帰ってきた。そうしたら審判員が説明しなかったから、また出て行って、お客さんに説明しろ、と。それが1、2分かかったんじゃないですか。まあ、そんなもん、全然気にしてないですけど。(時間切れ引き分けで優勝を逃した)近鉄の人たちにしてみたら、あの馬鹿野郎となるんでしょう。その悔しさがあったから、近鉄は次の年に優勝することになったと思います。