職人気質を感じるシャンパーニュ、ジャクソン。7つのヴィンテージを垂直試飲して見えたものとは?
ベースワイン(原酒)の醸造にはフードルと呼ばれるオークの大樽を用いるジャクソンだが、目立って木のニュアンスが感じられるキュヴェはひとつもなく、あくまでマイクロオキシジェネーション、つまりわずかな酸素とのコンタクトによってワインのストラクチャーを高めることが、フードル使用の目的だとわかる。 このなかで香り的に最も開き、階層的な複雑味を楽しめたのはキュヴェ740で、ヘーゼルナッツを思わせる香ばしさも漂う。ただし、これはオーク由来というよりも澱抜き後の熟成によって醸し出されたものだろう。ほかにもレモングラスやジンジャー、シナモンなどのハーブやスパイス香が彩りを添える。やはり‘‘2012年はシャンパーニュの当たり年‘‘だと痛感した。 いっぽう、決して目立つヴィンテージがベースではないにもかかわらず、力強く、複雑味をもち、凝縮感とエナジーに満ちあふれていたのが、2016年ベースの‘‘キュヴェ744‘‘。単にフレッシュ感を求めるなら最新キュヴェでも十分楽しめるが、‘‘ジャクソンらしいエナジーを感じたければ、現行キュヴェより2、3年前の数字を選んだほうが満足度は高そうだ‘‘。 フードペアリングで最も感心したのは‘‘キュヴェ740と和牛の炙りカルパッチョ‘‘。熟成を経て複雑なフレーヴァーを備えたこのキュヴェなら、肉とも対等にわたりあえる。
どのキュヴェもエレガンスとパワーが絶妙のバランスを保ちつつ、熟成の進行とともにまた別のディメンションが発展する。こうなると、たとえば通常のキュヴェ740と、遠からずリリースされるはずのキュヴェ740デゴルジュマン・タルディフ(瓶内熟成期間を延長し、澱抜きを遅らせたキュヴェ)とを並べ、澱が熟成にもたらす影響も比較したくなってしまう。ジャクソンのキュヴェ700シリーズ、やはり通好みのシャンパーニュだ。 【柳 忠之】 ワインジャーナリスト ワイン専門誌記者を経て、1997年に独立。以来フリーのワインジャーナリストとして、ワイン専門誌はもとより、数々のライフスタイル誌においてワイン関連記事を寄稿。日本ソムリエ協会発行の資格試験向け教本執筆者ながら、ソムリエ資格を有さず、業界のブラックジャックを自称する。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ、ボンタン騎士団名誉コマンドゥール。
フィガロジャポン編集部