手しごとの原点を見据えてきた稀有なマーケットが10年問い続けてきたこと
尾見さんが見せてくださったのは、これまで全10回のDM。毎回、「TRACING THE ROOTS」の世界観を表現するプリミティブで力強いメインビジュアルに圧倒されますが、それ以上に驚いたのは、配布する7000通すべてに手しごとを加えていること。
「根元に落ちている樹皮をスタッフみんなで拾い集めて同封し、ミシンで封筒を縫い上げたり、採集した蝶やトンボを入れるための『三角紙』と呼ばれるパラピン紙にミモザの種を入れて入場パスとして同封したり。福祉施設『ときわ会』の方たちに漉いていただいた牛乳パックの再生紙でフライヤーを綴じ、植物の繊維をほぐした糸で閉じたり、害獣として殺処分され、捨てられてしまう鹿の皮を紙にした鹿皮紙の端材でコラージュしたり。受け取った方が、これって何だろう?と想像したり、おもしろいものに出合えそうだと期待に胸を膨らませたり。そんな体温を感じられるDMにしようと年々スタッフと頭をひねらせ、力を合わせて頑張ってきました」
このDM自体がまさにひとつの作品でした。
10年を区切りとして最終回を迎えるに当たり、思い出深い展示を何か一つ上げるとしたら何ですか? と無理を承知で伺ってみました。
「2019年に特別展示として、アマゾン流域に暮らす多部族の生活工芸品を蒐集する文化人類学者の山口吉彦さんのコレクションを展示しました。
これ自体も圧巻でしたが、その翌年と2022年、2023年の3回に渡って、複数のアーティストが山口さんのコレクションの中から壊れてしまったパーツを活用し、新たな作品を生み出す『ブリコラージュ展』を企画したのです。神秘に満ちた大自然の中で育まれたものから、現代に生きるわたしたちはいったい何を受け取れるのか。この展示に限らず、展覧会を通して『これが正解ですよ』という答えをみなさんに提示しようとはまったく思っていないんです。『みなさんはどう思いますか?』という問いかけとして、DMに手間暇をかけたり、山口さんのコレクションのように、人に伝えて残していきたいと思える文化や手仕事の一部を展示販売しています。そこから先は、受け取った方それぞれが感じるものなのかなと思いますね」