100年前の本が教えてくれる"損を出す最大の原因"とは?
アメリカの証券業界で20年以上にわたって活躍したプロトレーダーが、米国株のチャートの見方を平易に解説する。(最新のドル円相場は こちら ) ■100年前の投資家が私たちに教えてくれること 今から101年前の1923年、『The Facts About Speculation』(トーマス・ギブソン著)という本が出版されました。日本語に訳すと「投機に関する事実」。残念ながら日本語訳の本は出版されていないようです。 驚くべきことに、こちらの本は1世紀前に書かれたとはいえ、書かれていることに古臭さは感じません。 著者のギブソン氏は、4000の投資家たちの証券口座を調査して、数々の興味深い事実を発見しました。4000の口座中、約500の口座は"USスチール株だけ"に投資していたのです。1年間の値動きを見てみると、同株には16ポイントの値幅があり、それらの事実からギブソン氏は以下のことに気がつきました。 ・平均的な口座には損が出ている。・安値圏での買いはほとんどなかった。・約10%の口座は、自分のルールに従って買い足していくという方法だった。しかし、それを途中でやめていた。もしやめないで買い足しを続けていたら、口座には利益が出ていた。・損が出た最大の原因は、株価が大幅に上昇した後に買ったためだ。心理的な要素が、明らかに大きく影響している。100年前の投資家に比べたら、今日の投資家は恵まれた環境で株の売買をしています。インターネットの発達で、株情報を即座に入手できるだけでなく、最近はAI(人工知能)を使った株分析も可能になりました。しかし、投資家たちは利益を上げることの難しさを今日(こんにち)も嘆いています。 ■低迷続きのインテルが大幅上昇 最近の例を見てみましょう。低迷が続いていたインテル( INTC )が、9月16日の取引で6.36%の大幅上昇となりました。「アマゾン向けのカスタムAIチップを製造する」「国防総省向けのチップ製造のために最大で35億ドルの補助金を受け取る」という報道が買い材料となりました。 下がインテルの日足チャートです。Aが6.36%の上昇となった9月16日です。良いニュースを反映して、伴った出来高は平均量を大きく上回っています。 問題はローソク足が形成された位置です。1、2、3で示しましたがマドの下限が明確なレジスタンスになっています。ですから、9月16日(A)に買った人たちの第1目標はマドの下限です。 執筆時点では、9月17日の取引が行われています。株価はマドの下限を一時超えましたが、まだ完全に突破していません(4)。取引時間はまだ3時間ありますから、平均以上の出来高となった前日の量を突破することは間違いありません。 まさに、感情的な買い手が押し寄せているわけですが、その中には「レジスタンス・レベルでは買わない」「買う前に、株価がマドの下限より上で終了となることを確認する」というルールを破って買い出動した人も多かったことでしょう。 ■高値圏で強気になってしまう投資家 短いタイムフレームのチャートにも、ルールを破って買い出動してしまった人たちの様子を見ることができます。インテルの30分足チャートを見てみましょう。 入れた指標は線形回帰チャネルです。3本の線で構成され、上下の線は、真ん中の線から2標準偏差離れたところに引かれています。 見てのとおり、線形回帰チャネルは上昇していますから、トレンドはアップトレンドになり、買いが基本的な姿勢となります。問題は円で囲った部分です。買い姿勢が正しいわけですが、ここでの買いはルールを破った買いです。 一番上の線は利食いの目安となりますから、そこでは持ち株を売って手仕舞うことになります。さらに面白いことは、買うべきでない位置、高値圏での出来高が大きく上昇しています。ギブソン氏は「損が出た最大の原因は、株価が大幅に上昇した後に買ったためだ」と指摘していますが、高値圏で強気になってしまう投資家の姿は100年と同じです。 鎌田 傳(かまだ・つたえ)/カリフォルニア州ロサンゼルス在住の専業投資家。高校卒業後に渡米。大学卒業後、1988年にカリフォルニアのベンチャーキャピタルに入社。ユニオンバンクの証券部や投資情報会社「TradingMarkets.com」のマーケットアナリストなどを経て現在に至る。著書に『 米国株チャート最強の教科書 』(SBクリエイティブ)。「T.Kamada」として情報発信するX(旧Twitter)( @Kamada3 )や ブログ のファンも多い。好きな映画は『フィールド・オブ・ドリームス』。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
鎌田 傳